雪女
雪の夜に現れる白衣の女。息で人を凍らせるとも、人に嫁いで子をなすとも語られる雪国の怪。

- 分類
- 雪
- 分布
- 青森から大分
- 出没
- 吹雪の夜
- 弱点・対処
- 煮え湯
- 主な初期記録
- 『宗祇諸国物語』(室町末期)
解説Overview
雪女は、冬に現れる女性の姿の怪である。青森県、山形県、秋田県、岩手県、福島県、新潟県、長野県、和歌山県、愛媛県、大分県などに伝承があり、正体は雪の精、雪中に行き倒れた女の霊などと土地によって分かれる。
呼び名はユキムスメ、ユキオナゴ、雪女郎、ユキアネサ、雪オンバ、雪ンバ、雪降り婆など多く、氷柱に結びつけてツララオンナ、カネコリムスメ、シガマニョウボウとも呼ばれる。姿はふつう人の背丈の白装束だが、『宗祇諸国物語』には越後で身長一丈ほどの雪女を見た記述がある。
今野圓輔は、雪の精霊・化身、雪山で死んだ者の亡霊、風呂に入れると溶ける笑い話(つらら女)の三類に分けた。息や精気で人を害する話、雪ん子を抱かせる話、人のもとへ嫁ぐ話が各地に残る。広く知られる異類婚姻の筋は、小泉八雲『怪談』の「雪女」による。
名称と語源
雪女(ゆきおんな)は村上健司『日本妖怪大事典』(2005)が項を立てる呼称で、ユキムスメ、ユキオナゴ、雪女郎、ユキアネサ、雪オンバ、雪ンバ、雪降り婆とも呼ばれる。歴史的仮名遣ではゆきをんな。語は「雪」と「女」を重ねたもので、分解した語源説は少ない。山岡元隣は雪も女も陰ゆえ越後の深い雪に雪女を生ずると述べた。
ツララオンナ、カネコリムスメ、シガマニョウボウは氷柱に結ぶ名で、青森県・山形県ではしがま女房、すが女房、たるひ女房と呼ぶ。今野圓輔はこの一群を笑い話のつらら女に分類する。山形県最上郡では産女を雪女だと伝え、大島広志『昔話・伝説小事典』(1987)は産女の伝承と通い合うとする。
長野県伊那のユキオンバと愛媛県吉田のユキンバは山姥型、和歌山県伊都のユキンボウは一本足の童子型に寄る。富山県のユキオン(雪鬼とも記す)、アイヌのウパシメノコ(雪の女性の意)は土地の別称である。『宗祇諸国物語』と近松門左衛門『雪女五枚羽子板』は雪女の名で記す。
姿かたち
室町時代末期の『宗祇諸国物語』は、越後国に滞在した法師が見た雪女を身長一丈ほどと記す。通常は人の背丈とされるが、小泉八雲は松江市で、夜は立木より高くなる真っ白で大きな顔の雪女の話を聞き、滋賀では島左近が一丈ほどの雪女郎に会ったという。鳥取県伯耆の神社のシイノキには冬に巨大な女性の雪女が現れると伝え、『あさいなしまわたり』『古今百物語評判』にも「巨大な」とする記述があることから、近世に大女としての雪女が成立した可能性が指摘されている。
服装は白装束の女性とするのが共通する。岡山県美作では花嫁衣装で綿帽子を被るとされ、稲荷山が鳴るときにはざんばら髪で口に櫛を咥えた白い着物姿で出ると伝える。江戸時代、吉原の八朔(8月1日)に花魁が纏う白い衣装は「雪女郎」と呼ばれ、越後の国の雪女郎という言い回しも流通していた。
長野県伊那地方ではユキオンバと呼び、雪の降る夜に山姥の姿で現れると信じられていた。小泉八雲『怪談』の「雪女」は、恐ろしい目をした白ずくめ、長い黒髪の美女として描き、同篇のお雪と呼ばれる女も雪のように白くほっそりとして老いない。
性質と弱点
岩手県や宮城県では人の精気を奪い、新潟県では子供の生き肝を抜き人を凍死させると伝える。秋田県西馬音内では顔を見たり言葉を交わすと食い殺され、茨城県や福島県磐城地方では呼びかけに返事をしないと谷底へ落とされると伝える。小泉八雲『怪談』の「雪女」では、白い息で樵の茂作を凍死させ、口外すれば命はないと禁ずる。大分県の吸ヶ谷では雪山に閉じ込められた椎茸取りが雪女郎に血を吸われたと伝え、八雲も「地方によっては血を吸う」と記す。
子供(雪ん子)を抱いてほしいと頼み、断らずに抱いて増える重さに耐えた者は怪力を得ると伝える。青森県弘前では武士が短刀を口にくわえて刃を子供の頭の近くに向けて抱き、怪異を逃れて宝物を得た。五所川原では抱いた侍が母乳を与えられ、相撲で負け知らずになったと伝える。
村上健司『日本妖怪大事典』(2005)によれば、岡山県では水を求めるが、水を与えると膨れ、煮え湯をかけると消える。鳥取県東伯郡小鹿村(現・三朝町)でも「氷ごせ湯ごせ」と言い、水で膨れ湯で消える。岐阜県揖斐川町のユキノドウは水を与えると殺し、熱い茶を出すものとされ、兵庫県では『般若心経』を書いた紙の破れたもので動けなくなると伝える。
伝承・逸話
つらら女房: 新潟県小千谷地方の伝承では、男のもとへ美しい女が訪ね、自ら望んで嫁になる。嫁の嫌がるのを無理に風呂へ入れると姿がなくなり、男が切り落とした細い氷柱の欠片だけが浮いていたという。青森県や山形県にも同様の話があり、しがま女房、すが女房、かねっこおり女房、たるひ女房など、「つららを指す方言+女房」の名で呼ばれる。村上健司『日本妖怪大事典』(2005)は雪女の話型として各地の伝承を記す。
囲炉裏の一夜: 山形県上山地方では、雪の夜に老夫婦のもとへ雪女が訪ね、囲炉裏の火にあたらせてもらう。夜更けにまた旅へ出ようとするので、翁が手をとって押し止めようとすると、ぞっとするほど冷たく、見る間に彼女は雪煙となって煙出しから出ていったと伝える。
雪ん子を抱く: 子供(雪ん子)を抱いてほしいと頼む話がある。弘前では、ある武士が雪女に子供を抱くよう頼まれ、短刀を口に咥えて子供の頭の近くに刃が来るようにして抱いたところ、この怪異を逃れた。子供を雪女に返すと、お礼として数々の宝物を贈られたという。五所川原では、子供を抱いていた侍が母乳を与えられ、相撲で負け知らずになったと伝える。大島広志『昔話・伝説小事典』(1987)は、山形県最上郡で産女を雪女だと伝える例を紹介する。
口外の禁: 小泉八雲『怪談』の「雪女」は、武蔵の国のある村の樵、茂作と巳之吉が吹雪で小屋に泊まった夜を語る。巳之吉が目を覚ますと白ずくめの長い黒髪の女がおり、茂作に白い息を吹きかけると茂作は凍死する。女は巳之吉を見て助けると言い、今夜のことを口外すれば命はないと告げて吹雪へ去る。数年後、巳之吉は「お雪」と名乗る女と結婚し十人の子をもうけるが、お雪は老いない。ある夜巳之吉が十八歳の頃に似た女に出会ったことを口にすると、お雪は自分こそ雪女だと明かし、子がいるゆえ殺さず、子を悲しませれば殺しに来ると告げ、白い霧となって煙出しから消える。八雲は武蔵の国西多摩郡調布村の百姓が語ったと記す。新潟県、富山県、長野県にも、泊り客の女と結ばれ子が生まれ、口外したために女が正体を明かし子ゆえ殺さず消える話が伝わる。小松和彦は、異類婚姻譚としての雪女はハーンの話に起因すると述べる。
遠野の童子連れ: 岩手県遠野地方では、小正月の1月15日、または谷の満月の夜に、雪女が多くの童子を連れて野に出て遊ぶので、子供の外出を戒めるという。柳田國男『遠野物語』は、吹雪が外障子を叩く音を障子さすりといい、雪女が障子を撫でているとして遅寝の子を早く眠らせる習俗を記す。
起源と解釈
雪女の正体は、雪の精とする伝えと、雪中で行き倒れた女の霊とする伝えが並ぶ。今野圓輔は、精霊・化身、雪山の死霊、笑い話化の三類に大別した。近松門左衛門『雪女五枚羽子板』は惨殺された女が雪女となり復讐する話で、死霊としての捉え方を示す。
民俗学で繰り返し指摘されるのは産女(うぶめ)との対応である。大島広志は山形県最上郡で産女を雪女と伝える例を挙げ、子供を連れて現れる像は産女の伝承と通い合うとした。山形県小国地方の雪女郎は月世界の姫が地上に降り帰れなくなった天女で、子供を攫う点は中国の姑獲鳥に似るとされ、姑獲鳥が産女と同一視された結果、雪女は幽霊と解釈された。藤沢衛彦は本来うぶめの系統に属し、約束のもと人に嫁ぐ話は無いと述べる。特定の日に来て去る点から歳神とする説もあり、青森県では正月三日に里へ降り、最初の卯の日に山へ帰ると伝えられた。
人に嫁ぐ話型を古来の伝承とみるかは分かれる。小松和彦は異類婚姻譚としての雪女は小泉八雲『怪談』の「雪女」に起因すると述べ、大島広志はハーンが聞いた源話を世間話とした。牧野陽子はテオフィル・ゴーティエ『死霊の恋』の影響と、発表以前に酷似話が無い点から古来の伝承かを疑い、ハーンの話が伝播した可能性を指摘する。
史料の変遷
現存する早い記述は室町時代末期の『宗祇諸国物語』である。越後国に滞在した法師が雪女を見たと記しており、室町時代にはすでに伝承があったことが窺える。
幸若の『伏見常磐』などに見え、近世には記録が確認できる。近松門左衛門は『雪女五枚羽子板』を書き、怪異談集の『あさいなしまわたり』や『古今百物語評判』にも記される。
小泉八雲は『怪談』に「雪女」を収めた。英語版の序文には、東京府西多摩郡調布村出身の奉公人から聞いた話が元だと記されている。平川祐弘編『怪談・奇談』は収録四十八話のうち三十話に原拠を示すが、「雪女」のそれは収めていない。柳田國男『遠野物語』は、吹雪が外障子を叩く音を雪女に結びつける習俗を民俗誌として記した。
大島広志『昔話・伝説小事典』(1987)は、ハーンが聞いた源話を伝説ではなく世間話とする。村上健司『日本妖怪大事典』(2005)、小松和彦編『日本怪異妖怪大事典』(2013)が事典項として整理し、牧野陽子『ラフカディオ・ハーンと日本の近代』(2020)は、発表以前に酷似した話が存在しない点などから、この話が古来の伝承であるかに疑義を呈する。
ゆかりの地
東京都青梅市千ヶ瀬町、秋川街道が多摩川をまたぐ調布橋のたもとには、2002年に「雪おんな縁の地」の碑が立てられた。表側に碑文、裏側に小泉八雲『怪談』所収「雪女」の和英両方の序文と小泉の肖像を刻んだ銘板がある。八雲が聞いた話の語り手は、当時の東京府西多摩郡調布村(現在の青梅市南部、多摩川沿い。現在の調布市は当時、東京府北多摩郡調布町で無関係)の出身とされ、この地域で酷似した話の記録も見つかっている。大島広志『昔話・伝説小事典』(1987)は、ハーンが聞いた源話を伝説ではなく世間話とする。
岩手県遠野市は、柳田國男『遠野物語』が、吹雪が外障子を叩く音を「障子さすり」といい、雪女が障子を撫でているとして遅寝の子を眠らせる習俗を記した土地である。小正月の1月15日、または谷の満月の夜には雪女が多くの童子を連れて野へ出ると伝え、子どもを外へ出さない戒めとする。
青森県弘前市には正月元旦に雪女が来て帰る伝えがあり、同県五所川原市辺りでは12月30日から元旦までの夜に訪れ、巳の日に帰る雪女をみのっことも呼ぶ。新潟県小千谷地方はつらら女の伝承地、鳥取県東伯郡小鹿村(現・三朝町)は淡雪に乗って現れる雪女の伝えがある土地である。
現代の受容
小泉八雲は『怪談』(Kwaidan)所収の「雪女」に、武蔵の樵巳之吉とお雪を置き、白い息で茂作を凍死させ、口外の禁を破ると消える話を記した。牧野陽子『ラフカディオ・ハーンと日本の近代』(2020年)は、ハーンの訳書がかなり早くから広く読まれていたと記す。
小松和彦は、異類婚姻譚としての雪女はハーンの話に起因すると述べる。牧野は、一篇が他の雪女譚の筋から逸脱し、発表以前に酷似した話がなく、雪女像にテオフィル・ゴーティエ『死霊の恋』の吸血鬼の影響があるとして、古来の伝承であるかに疑問を呈し、ハーンが着想として創作し類似話が伝播した可能性を指摘する。大島広志は、ハーンが聞いた源話を伝説ではなく世間話とする。
村上健司『日本妖怪大事典』(2005年)と小松和彦編『日本怪異妖怪大事典』(2013年)は「雪女」項を立てる。漫画・アニメ・ゲーム・広告・商品を作品名と年で記す記述は、これらの出典には示されていない。流通した嫁入りと口外禁忌の像はハーン型であり、事典が整理する民俗上の像とは層を異にする。
出典・参考文献References
- 『宗祇諸国物語』 宗祇 1685越後国に滞在した法師が、身長一丈ほどの雪女を見たとする記述。
- 『雪女五枚羽子板』 近松門左衛門だまされ惨殺された女が雪女となり復讐する浄瑠璃。
- 『怪談』 小泉八雲「雪女」。武蔵の樵巳之吉とお雪。白い息で茂作を凍死させ、口外の禁を破ると消える。
- 『遠野物語』 柳田國男 1910吹雪が外障子を叩く音を障子さすりといい、雪女が障子を撫でているとして遅寝の子を眠らせる習俗を記す。
- 『昔話・伝説小事典』 大島広志(みずうみ書房) 1987山形県最上郡で産女を雪女と伝える例を紹介し、ハーンが聞いた源話を世間話とする。
- 『日本妖怪大事典』 村上健司(角川書店) 2005「雪女」項。
- 『日本怪異妖怪大事典』 小松和彦(東京堂出版) 2013編者の小松和彦は、異類婚姻譚としての雪女はハーンの話に起因すると述べる。
- 『ラフカディオ・ハーンと日本の近代』 牧野陽子(新曜社) 2020ハーンの雪女が古来の伝承かを疑い、発表以前に酷似した話がなく創作が伝播した可能性を指摘する。
ランキング順位Rankings
ゆかりの地Places
- 遠野(岩手県)小正月の1月15日、または谷の満月の夜に雪女が多くの童子を連れて野に出て遊ぶとされ、子供の外出を戒める。
- 弘前(青森県)正月に雪女が里へ来て帰り、武士が雪ん子を短刀を咥えて抱いて怪異を逃れた話が残る。
- 五所川原(青森県)12月30日から元旦の夜に訪れ巳の日に帰るためみのっことも呼ばれ、雪ん子を抱いた侍が母乳を受け相撲に強くなったという。
- 青梅・調布橋(東京都)八雲が聞いた調布村は現在の青梅市南部にあたり、2002年に千ヶ瀬町の調布橋たもとへ「雪おんな縁の地」の碑が立った。
- 小千谷(新潟県)美しい女が嫁入りし、風呂に入れると姿がなくなり氷柱の欠片だけが残ったというつらら女型の話がある。
- 三朝(鳥取県)旧小鹿村。淡雪に乗り「氷ごせ湯ごせ」と言って白幣を振り、水をかけると膨れ湯をかけると消える。
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よくある質問FAQ
雪女は本当に人を殺すの?
凍死させる型の話が多い一方、人に嫁ぐ話や、子どもを連れて歩くだけの話もあります。雪山の遭難を説明する存在として語られた面が大きいと考えられています。
雪女は人を殺すのか
土地による。岩手・宮城では精気を奪い、新潟では人を凍死させるとし、秋田県西馬音内では顔を見ると食い殺される。松江で八雲が聞いた話ではただ驚かすだけとし、人に嫁ぐ話や子を連れて遊ぶ話もある。
小泉八雲の『雪女』は古い伝承か
八雲は武蔵国西多摩郡調布村の百姓から聞いたと記す。大島広志は源話を世間話とし、牧野陽子は発表以前に酷似した話がなく、八雲の創作が伝播した可能性を指摘している。
雪女の弱点は何か
岡山県や鳥取県三朝町では水をかけると膨れ、湯をかけると消える。岐阜県揖斐川町のユキノドウには熱い茶を出せといい、兵庫県では般若心経を書いた破れた紙で動けなくなるという。
雪女と産女はどう違うのか
大島広志は山形県最上郡で産女を雪女と伝える例を挙げ、子を連れる像は産女と通い合うとする。藤沢衛彦は雪女を産女の系統とし、約束のもと人に嫁ぐ話は本来無いとした。
雪女にはどんな別名があるか
ユキムスメ、ユキオナゴ、雪女郎、ユキアネサ、雪オンバ、雪ンバ、雪降り婆など。氷柱に結びつけてツララオンナ、カネコリムスメ、シガマニョウボウとも呼ばれる。
最終更新: · 編集: 百鬼編集室

