貉

むじなmujina

貉(むじな)はアナグマやタヌキを指す異名だが、妖怪としては人を化かす獣の総称として伝承され、特に「むじなの怪」として夜道で人を驚かす怪異をいう。

イメージ画(当サイト制作)
分類
動物の怪
分布
日本各地
出没
夜道・山道・田
主な初期記録
『日本書紀』推古35年

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解説Overview

貉(むじな、狢とも書く)は、主にアナグマを指す獣の名で、土地や時代によりタヌキやハクビシンを含み、これらを分けずに呼ぶこともある。妖怪としてはキツネ・タヌキと並び、人を化かす獣として語られる。

文献上の初見は『日本書紀』推古天皇35年(627年)条の「陸奥国に狢有り。人となりて歌う」とされる。目撃談では犬ほどの大きさ、短い前足、茶色の毛で、老いると背に十字の毛が生え化けるという。化かし方は、田や道を深い川に見せる、馬糞をまんじゅう・肥溜めを風呂に見せる、方向感覚を奪う、の三つが挙げられる。人を殺す凶悪なむじなを「おおむじな」と呼ぶ土地もある。下総(現・千葉県・茨城県)では短い着物のおかっぱ頭の小僧「かぶきり小僧」に化け、夜道で「水飲め、茶を飲め」と声をかけたとされる。その話は戦後には見られなくなった。小泉八雲『怪談』の一篇「貉」はのっぺらぼうを貉の化けと見立てた題で、小泉凡は八雲の創作である可能性を指摘している。

名称と語源

ムジナは「貉」「狢」と書き、主にアナグマを指す動物名である。時代や地方によってはタヌキやハクビシンを指し、種を分けずまとめて呼ぶこともある。地方名「マミ」が交じると指す対象はさらに錯綜する。村上健司『日本妖怪大事典』(2005)は、この動物名と化け獣としての伝承を同じ項で扱う。

文献上の初見は『日本書紀』推古天皇35年(627年)2月条で、表記は「狢」である。陸奥国に狢があり「人となりて歌う」と記され、動物名と人に化ける観念が同じ語に載っていたとされる。妖怪としてはキツネやタヌキと並ぶ化け獣の名として用いられ、下総地方(現・千葉県、茨城県)では短い着物を着たおかっぱ頭の小僧に化けるものを「かぶきり小僧」と呼んだ。童子の姿をとる系統である。一部の地域では人を何人も殺すものを「おおむじな」と呼ぶ。

アイヌ語ではエゾタヌキを「モユㇰ」と呼び、顔の黒いものを「スケモユㇰ」と区別する。タヌキとムジナは分けられず、ユーカラ「モユㇰ キムンカムイ」は一般に「ムジナと熊」と訳される。

出典: 〔1〕〔4〕

姿かたち

目撃談によると、ムジナの大きさは犬くらいで、後ろ足に比べて前足は短く、毛の色は茶色である。歳をとると背中に白色(黒色)の毛が十字に生え、人を化かせるようになると伝える。

下総地方(現・千葉県、茨城県)では「かぶきり小僧(かぶきりこぞう)」といい、ムジナが妙に短い着物を着たおかっぱ頭の小僧に化けるとされた。

アイヌ文化ではタヌキとムジナは区別されておらず、エゾタヌキのうち顔が黒いものを「スケモユㇰ」と呼ぶ。キムンカムイ(山の神、すなわち熊)に仕えて飯を炊いた煤で顔が黒くなったという。

小泉八雲の『怪談』にのっぺらぼうの化け物が出て来る一篇があり、題を「貉(むじな)」とした。八雲はこれをムジナが化けたものと見立ててこの題を付けている。小泉凡は、巨大な化け物が夜道に現れて人を嚇かすという日本の伝承にヒントを得て、八雲自身の子ども時代の体験と結び付けて出来た八雲の創作である可能性を指摘している。目撃談の獣形、かぶきり小僧の童子形、煤で黒い顔、八雲ののっぺらぼうは外形を共有しない。図像の定型がいつ固まったかは、これらの記述には見えない。

出典: 〔2〕〔4〕

性質と弱点

民話では、ムジナはキツネやタヌキと並び、人を化かす妖怪として描かれることが多い。化かし方は三つに分けて伝えられる。田や道を深い川のように見せること、馬糞をまんじゅうに、肥溜めを風呂のように見せること、方向感覚を失わせることである。各地では、人の三倍の速さで走るとか、雌雄の仲がよいといった伝えもある。

人を何人も殺す凶悪なムジナがおり、一部の地域ではそれを「おおむじな」と呼ぶことがある。下総地方(現・千葉県、茨城県)では、妙に短い着物を着たおかっぱ頭の小僧に化け、人気のない夜道や山道で「水飲め、茶を飲め」と声をかけると伝えられる。一方、アイヌのユーカラ「モユㇰ キムンカムイ」(一般に「ムジナと熊」と訳される)では、言いつけを破って人間の世界に残ったムジナが、家の入り口を守る神・病を治す神になったと語られる。アイヌ文化ではタヌキとムジナは区別されていない。

ことわざ「同じ穴のムジナ」は、一見違って見えて実は同類であることのたとえで、主に悪い意味で用いられる。迷信では、人を化かすとされるタヌキと同じ穴で暮らす習性に由来するとされる。アナグマが掘った巣をタヌキやキツネ、アライグマが共同利用することは、実際に確認されている。

出典: 〔4〕

伝承・逸話

人となりて歌う狢: 『日本書紀』の推古天皇35年(627年)の条に、「春2月、陸奥国に狢有り。人となりて歌う」とある。文献上の初見とされ、狢が人の姿をとって歌う話がこの条に残る。歌うに至る経緯や、その後の顛末は記されていない。

かぶきり小僧: 下総地方(現・千葉県、茨城県)では、ムジナが「かぶきり小僧(かぶきりこぞう)」に化ける話が伝えられた。ムジナは妙に短い着物を着たおかっぱ頭の小僧の姿で、人気のない夜道や山道に出没し、「水飲め、茶を飲め」と声をかけるという。このような話は、戦後以降は見られなくなった。

おおむじな: 人を何人も殺す凶悪なむじながおり、一部の地域ではそれをおおむじなと呼ぶことがある。

貉(むじな): 小泉八雲の『怪談』に、のっぺらぼうの化け物が出て来る一篇「貉(むじな)」がある。八雲はこれをムジナが化けたものと見立てて題を付けた。小泉凡は、巨大な化け物が夜道に現れて人を嚇かすという日本の伝承にヒントを得て、八雲自身の子ども時代の体験と結び付けて出来た、八雲の創作である可能性を指摘している。

ムジナと熊: アイヌのユーカラ「モユㇰ キムンカムイ」は、一般に「ムジナと熊」と訳される。アイヌ文化ではタヌキとムジナは区別されていない。熊と暮らしていたムジナがアイヌモシリ(人間の世界)に行った際、言いつけを破ったことでカムイモシリ(神の世界)へ戻れなくなり、チセ(家)の入り口を守る神であり病を治す神になったという筋である。顔の黒いモユㇰを「スケ(飯炊きをする)モユㇰ」と呼ぶのは、キムンカムイ(山の神、熊)に仕えて飯を炊き、煤で顔が黒くなったという伝承によるとされる。

出典: 〔1〕〔2〕〔4〕

起源と解釈

ハクビシンはムジナの候補のひとつとされる。南方系の動物でありながら九州に生息せず、四国および本州に生息していること、日本における生息が比較的近年まで確認されていなかった事実から、帰化動物とされる。一方、ムジナとしてアナグマやタヌキと混同され、または雷獣として認識された日本の在来種であったという説もある。大正時代の大審院では、ムジナが狩猟法上のタヌキに該当するかが争われ、呼称の混同が種の同定の問題として裁かれた。

小泉八雲は『怪談』の一篇を「貉(むじな)」と題し、のっぺらぼうの化け物を貉が化けたものと見立てた。小泉凡は、巨大な化け物が夜道に現れて人を嚇かすという日本の伝承にヒントを得て、八雲自身の子ども時代の体験と結び付けて出来た八雲の創作である可能性を指摘する。

アイヌ文化ではタヌキとムジナは区別されておらず、ユーカラ「モユㇰ キムンカムイ」は一般的に「ムジナと熊」と訳される。顔が黒いエゾタヌキをスケモユㇰと呼ぶのは、キムンカムイに仕えて飯炊きをしたため煤で顔が黒くなったという伝承に基づく。同叙事詩は、言いつけを破ってカムイモシリへ戻れなくなったムジナが、チセの入り口を守る神および病を治す神になったと語る。

出典: 〔2〕〔3〕〔4〕

史料の変遷

文献上の初見は、『日本書紀』推古天皇35年(627年)2月条とされる。正史が陸奥国の狢を春2月の記事として記した記録である。

1904年の小泉八雲『怪談』には一篇「貉(むじな)」がある。のっぺらぼうの化け物が出る話であり、八雲は貉が化けたものと見立てて題を付けた。小泉凡は、夜道に巨大な化け物が現れて人を嚇かすという日本の伝承に、八雲自身の子ども時代の体験を結び付けた創作である可能性を指摘している。

大正時代、ムジナが狩猟法上のタヌキに該当するかを大審院で争った「たぬき・むじな事件」が残る。化かしの話型ではなく、法令上の種名の該当を問う裁判記録として貉の名が現れた例である。

下総地方に伝えられた「かぶきり小僧」のような夜道のむじな話は、戦後以降見られなくなったとされる。2005年の村上健司『日本妖怪大事典』は「貉」「むじな」の項で動物名と化け獣としての伝承を扱い、国際日本文化研究センターの「怪異・妖怪伝承データベース」では同名で伝承事例を検索できる。

出典: 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕

ゆかりの地

伝承地: 村名・社寺・祭礼・碑など、所在を特定できる貉の伝承地は、『日本書紀』推古天皇35年(627年)2月条にも、下総のかぶきり小僧の伝えにも現れない。訪ね得る施設はない。

陸奥国: 『日本書紀』推古天皇35年(627年)2月条は、狢の所在を陸奥国と記す。条は春2月の記事として国名を残すのみで、郡・郷・村の名は付かない。所在地つきの一点を訪ねることはできない。

下総地方(千葉県・茨城県): 下総地方(現・千葉県、茨城県)では、ムジナがかぶきり小僧(かぶきりこぞう)に化け、人気のない夜道や山道に出没したと伝える。市町村名・峠・社寺・祭礼の固有名は残らず、戦後以降その話は見られなくなったとされる。訪ね得るのは県域にとどまる。

出典: 〔1〕〔4〕

現代の受容

小泉八雲『怪談』(1904年)の一篇「貉(むじな)」では、のっぺらぼうの化け物が出て、八雲は貉が化けたものと見立てて題を付けた。小泉凡は、夜道に現れる巨大な化け物という伝承と八雲の子ども時代の体験を結び付けた創作である可能性を指摘している。文学上の無顔の像は、民話における化かし獣の像とは層を異にする。

かぶきり小僧の話は戦後以降見られなくなった。ことわざ「同じ穴のムジナ」は、一見違って見えるものが実は同類であることのたとえとして、主に悪い意味で現在も用いられる。

大正時代には、ムジナが狩猟法上のタヌキに該当するかを争ったたぬき・むじな事件が大審院で審理された。村上健司『日本妖怪大事典』(2005年)は動物名と化け獣の双方を扱い、国際日本文化研究センターの『怪異・妖怪伝承データベース』は「貉」「むじな」の伝承事例を収録する。

出典: 〔2〕〔3〕〔4〕

出典・参考文献References

  1. 『日本書紀』 舎人親王ほか 720
    推古天皇35年(627年)2月条。「陸奥国に狢有り。人となりて歌う」と記す。文献上の初見とされる。
  2. 『怪談』 小泉八雲 1904
    一篇「貉(むじな)」。のっぺらぼうの化け物が出る話で、八雲は貉が化けたものと見立てて題を付けた。
  3. 『たぬき・むじな事件』 大審院
    大正時代、ムジナが狩猟法上のタヌキに該当するかを争った事件。
  4. 『ムジナ』(2026-09-20)
    動物名の混同、目撃談の外形、化かし方の三類型、かぶきり小僧、アイヌのユーカラを記す。

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ゆかりの地Places

  • 陸奥国『日本書紀』推古天皇35年条で、狢が人となり歌うと記された地。
  • 下総(千葉県・茨城県)貉がかぶきり小僧に化け、夜道で「水飲め、茶を飲め」と声をかけたとされる地方。

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よくある質問FAQ

むじなとは何ですか?

むじなは、アナグマやタヌキを指す方言名で、妖怪としては人を化かす獣の総称です。

むじなとタヌキの違いは?

地域によって異なりますが、東日本ではアナグマ、西日本ではタヌキを指すことが多いです。妖怪としてはどちらも化け動物として扱われます。

むじなに憑かれるとどうなる?

新潟や長野の伝承では、むじなに憑かれると体調を崩すとされます。

むじなとタヌキはどう違うのですか?

主にアナグマを指すが、時代や地方ではタヌキやハクビシンを指し、種を分けずに呼ぶこともある。地方名「マミ」も交ざり、動物としての区別は一定しない。妖怪としてはキツネ・タヌキと並ぶ化け獣として扱われる。

かぶきり小僧とは何ですか?

下総地方(現・千葉県、茨城県)の伝承で、貉が短い着物を着たおかっぱ頭の小僧に化け、人気のない夜道や山道で「水飲め、茶を飲め」と声をかけるものをいう。戦後以降は見られなくなったとされる。

文献に最初に出るのはいつですか?

『日本書紀』推古天皇35年(627年)2月条に「陸奥国に狢有り。人となりて歌う」とあるのが初見とされる。この記事は、当時すでに貉が人に化けるという観念があったことを示すものと読む立場がある。

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最終更新: · 編集: 百鬼編集室