化け狸

ばけだぬきbake-danuki

日本各地で伝承される、人を化かし時には人に化けるとされる狸の妖怪。

イメージ画(当サイト制作)
分類
動物の怪
分布
全国(島嶼部を除く)
出没
野山
弱点・対処
煙草の火と針
主な初期記録
『日本書紀』(720)

6 出典 · 4,267 字 · 最終更新

解説Overview

化け狸(ばけだぬき)は、野山に棲む狸が人をたぶらかし、ときに人の姿に化けるとされる妖怪である。妖狸(ようり)、古狸(こり、ふるだぬき)、怪狸(かいり)とも呼ばれる。

広く知られる最古の記録は、奈良時代に編まれた『日本書紀』の推古天皇35年条で、陸奥国の狢が人となり歌をうたったとする記述である。ついで『日本霊異記』『宇治拾遺物語』『古今著聞集』に「狸」の字で示された獣が現れる。江戸期の『本朝食鑑』巻11は、化ける、腹つづみ、巨大な陰嚢といった挙動を狸の項に記す。狢・猯との区別は土地の呼称のゆれにより厳密でない。沖縄県と南西諸島・伊豆諸島を除くほぼ全国に話があり、佐渡・淡路・四国に特に多い。

名称と語源

化け狸(ばけだぬき)は、人をたぶらかし、または人の姿に化けるとされる狸の妖怪の呼び名である。文章では漢語の熟語として妖狸(ようり)、怪狸(かいり)、古狸(こり、ふるだぬき)とも記される。江戸時代以降はたぬき、むじな、まみと呼ぶ例が多く、狢(むじな、化け狢)や猯(まみ)との区別は厳密にはついていない。タヌキ・ムジナ・マミの呼称が土地によってまちまちであったことに由来すると考えられている。関西ではまめだ(豆狸・猯)、東北地方ではくさい、くさえ(くさいなぎ)とも呼び、いずれも動物としての呼称と共通する。

「狸」の字は、中国ではヤマネコを中核とするネコに似た中型哺乳類の総称として用いられていた。日本にはヤマネコに相当する動物がいないため、古代から中世の知識人はタヌキ、野良猫、イノシシ、アナグマ、イタチ、ムササビなどを文献によってまちまちに「狸」に当てたと見られている。景戒『日本霊異記』の興福寺本では「狸」に「ネコ」の訓があり、深根輔仁『本草和名』および『和名類聚抄』(10世紀ころ)では狸・狢・猯がそれぞれの訓に分かれ、猫とも別項とされる。『本草色葉集』(1284年)や『壒嚢鈔』(1445年)には「狸」に「ねこ」と訓をつける箇所が残り、漢字の指す範囲は長く曖昧であった。最古例として広く挙げられる『日本書紀』推古天皇35年春2月条は、陸奥国の変化を「狢」と記し、「狸」の字は用いない。

出典: 〔1〕〔2〕〔6〕

姿かたち

化け狸の姿は、動物としての狸のままふくらませた腹を叩いて腹つづみ(狸囃子)を鳴らし、巨大な陰嚢を用いるものと、人や器物に化けたものとに分かれる。人見必大『本朝食鑑』巻11(1697年)の狸の項は、化ける行動に加えてこれらの挙動を記しており、江戸時代から絵画や物語を中心に狸の特徴として確認できる。

巨大な陰嚢は「狸の金玉八畳敷き」という狸全般の慣用句から生じたと考えられており、その陰嚢を畳敷きの座敷や大きな寺院に見せて人を化かす話が、明治から昭和前期にかけて各地で採取されている。

化けたあとの姿は一定しない。全国的には人間や寺の僧、大入道やのっぺらぼうといった他の妖怪に化けた話が知られ、徳島県では赤いでんちゅうを着た子ども(赤殿中)や傘をさした人(傘差し狸)、白徳利、ウサギ、香川県では綿のかたまり(打綿狸)など、仮の姿そのものが土地ごとに異なる。国際日本文化研究センターの「怪異・妖怪伝承データベース」は、化け狸・狸の見出しでこうした各地の変化譚を収録する。

出典: 〔5〕

性質と弱点

化け狸は野山に棲み、人を化かし、ほかのものに化け、人に憑くとされる。人や寺の僧、大入道やのっぺらぼうなどの妖怪に化け、家の戸を叩いて呼びかける話型も全国的に知られる。『日本書紀』推古天皇35年春2月条は、陸奥国の狢が人となりて歌をうたったと記す。人見必大『本朝食鑑』巻11(1697年)の狸の項にも、化ける行動が記されている。

化かす手口のひとつに、八畳敷きの陰嚢を畳敷きの座敷や大きな寺院に見せかける話がある。「狸の金玉八畳敷き」という慣用句から生じたとされる。煙草の火あるいは針などを落とされると化けに失敗し、この失敗譚は昔話として日本各地で明治から昭和前期にかけて広く採取されている。

化ける動物の代表として狐と並び称され、化かす腕前は狐より上だと俗にいわれ、「狐七化け狸八化け」ということわざがある。何をもって基準とするかは定かでなく、定説ははっきりしていない。

特別な神通力をもつと考えられた狸は、寺社や祠を造営されて祭祀の対象となった。佐渡の団三郎狸、徳島県の金長狸、香川県の太三郎狸などがその例で、いま確認される社祠の多くは江戸時代末期から昭和初期にかけて整備されたものである。

出典: 〔1〕〔5〕

伝承・逸話

文福茶釜: 狸が化けた茶釜が寺の持ち物となる昔話である。群馬県館林市の茂林寺の伝説では、狸が守鶴という僧に化けて七代寺を守り、汲んでも尽きない茶を沸かしたとされる。村上健司『日本妖怪大事典』は狸の項で化ける能力と各地の名のある狸を概説する。

狸囃子: 発生源をつかむことも確かめることもできない太鼓やお囃子の音を指す話型である。江戸(東京都)では本所七不思議や番町七不思議のひとつに数えられ、深夜にどこからともなく太鼓の音が聞こえてくるものを狸囃子といった。国際日本文化研究センター『怪異・妖怪伝承データベース』は化け狸・狸の見出しで各地の変化譚を収録しており、この音の怪異もそのうちに含まれる。

負われ坂: 大阪府南河内郡に伝わる。夜にある坂を通ると「おわれよか、おわれよか」という声がするので、気丈な男が「負うたろか負うたろか」と応じたところ、松の株太が乗りかかった。家に帰ってナタで割ろうとすると、古狸が正体を顕わして詫びたと伝える。『怪異・妖怪伝承データベース』にこの話型がみえる。

赤殿中: 徳島県板野郡堀江村(現・鳴門市)の話である。夜中、狸が赤いでんちゅう(袖のない半纏)を着た子どもに化け、背負うことをしつこくねだる。仕方なく背負うと、いかにも嬉しそうな様子でその人の肩を叩くという。四国には狸に関する伝承が多く確認されており、同データベースは徳島県下の変化譚を収録する。

小僧狸: 徳島県麻植郡学島村(現・吉野川市)に伝わる。小僧に化けて夜道を行く人を通せんぼし、怒った相手が突き飛ばしたり刀で斬ったりすると、そのたびに数が倍々に増え、一晩中人を化かすと伝える。

起源と解釈

通説:化け狸系の変化として広く挙げられる最古の例は、舎人親王『日本書紀』(720年)の推古天皇35年春2月条である。陸奥国に狢があり、人となって歌をうたったと記す。条の主体は狸ではなく狢であり、狢と狸の区別は厳密にはついていない。

字義の解釈:「狸」の字は、中国ではヤマネコを中核とするネコに似た中型哺乳類の総称であったとされる。日本にヤマネコに相当する動物がないため、古代から中世の知識人はタヌキ、野良猫、イノシシ、アナグマ、イタチ、ムササビを文献ごとに「狸」に当てたと見られる。景戒『日本霊異記』(822年)興福寺本では「狸」に「ネコ」の訓がある。深根輔仁『本草和名』(918年)では狸・狢・猯がそれぞれの訓に分かれ、猫とも別項とされた。漢字「狸」の指す動物が分かれてきた段階の記録である。

俗説:村上健司『日本妖怪大事典』(2005年)は狸の化ける能力を概説する。ことわざ「狐七化け狸八化け」では、狐より狸のほうが人を化かす腕が一段上であると俗にいわれるが、何をもって基準とするかは定かでなく、定説ははっきりしていない。狸と狐の順位が入れ替わる言い方もある。

出典: 〔1〕〔2〕〔6〕

史料の変遷

舎人親王『日本書紀』(720年)推古天皇35年春2月条に陸奥国の狢が見え、景戒『日本霊異記』(822年)、『宇治拾遺物語』、橘成季『古今著聞集』(1254年)にも「狸」の字で示された獣の説話が載る。

「狸」の指す動物は史料ごとに一定しない。深根輔仁『本草和名』(918年)と『和名類聚抄』は狸・狢・猯を訓で分かち猫とも別項とするが、『本草色葉集』(1284年)と『壒嚢鈔』(1445年)には「狸」に「ねこ」の訓が残り、興福寺本『日本霊異記』にも「ネコ」の訓がある。

人見必大『本朝食鑑』(1697年)巻11の狸の項は化ける挙動を記す。江戸時代以降はたぬき・むじな・まみ等の呼ばれ方が主にみられ、京都・大阪・江戸や城下町に化かす話が残り、佐渡島・淡路島・四国には狢・狸の伝説が近世から特に多く記録された。

江戸時代末期から大正・昭和初期にかけ、団三郎・芝右衛門・太三郎など名のある狸が寺社にまつられ、隠神刑部は講談を通じて知られた。化かす昔話は明治から昭和前期に日本各地で採取された。村上健司『日本妖怪大事典』(2005年)が化ける能力と名のある狸を概説し、国際日本文化研究センター「怪異・妖怪伝承データベース」が各地の変化譚を収録する。

出典: 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕〔5〕〔6〕

ゆかりの地

佐渡島(新潟県): 団三郎狸は神通力を持つとされ、寺社や祠が造営されて民間の祭祀の対象となっている。現在確認されるその多くは江戸時代末期から昭和初期にかけて整備され、霊験が話題となって流行神として祀られた例もある。

淡路島(兵庫県)・屋島(香川県): 芝右衛門と太三郎狸は、江戸時代末期から大正・昭和初期にかけて大きな勢力をもった名のある狸として知られ、いずれも寺社にまつられている。村上健司『日本妖怪大事典』(2005年)は狸の項で各地の名のある狸を概説する。

徳島県・松山市(愛媛県): 金長狸・六右衛門狸、お袖狸にも寺社や祠が造営されている。四国には狢・狸に関する伝説が近世から特に数多く記録されている。国際日本文化研究センター『怪異・妖怪伝承データベース』は、化け狸・狸の見出しで各地の変化譚と名のある狸の事例を収録する。

茂林寺(群馬県館林市): 狸が僧に化けて寺を守ったとする伝説の舞台とされる寺院である。

現代の受容

童謡『証城寺の狸囃子』は證誠寺に伝わる伝説を元に作られ、寺に残る狸の話が歌として流通した例である。江戸時代末期以後は、八百八匹の眷属を従えたとされる隠神刑部が講談を通じて知られ、名と眷属を備えた狸の像が語り物として広まった。

愛媛県や香川県などには、人間に化けた狸が兵士として日露戦争に従軍したという軍隊狸の話がある。化けるという話型が近代の戦争に結び付けられたものである。

村上健司『日本妖怪大事典』(2005年)の狸の項は、化ける能力と各地の名のある狸を概説する。国際日本文化研究センターの『怪異・妖怪伝承データベース』は、化け狸・狸の見出しで各地の変化譚と名のある狸の事例を収録する。講談や童謡で固定された像と、採録される土地ごとの話とは層を異にする。

出典・参考文献References

  1. 『日本書紀』 舎人親王 720
    推古天皇35年春2月条。陸奥国に狢あり、人となりて歌をうたうと記す。化け狸系の変化として広く挙げられる最古例。
  2. 『日本霊異記』 景戒 822
    「狸」の字で示された獣の怪異を載せる。興福寺本では「狸」に「ネコ」の訓がある。
  3. 『宇治拾遺物語』
    鎌倉期の説話集。「狸」の字で示された獣が話に登場する。
  4. 『古今著聞集』 橘成季 1254
    鎌倉時代の説話集。「狸」の字で示された獣が話に登場する。
  5. 『本朝食鑑』 人見必大 1697
    巻11の狸の項に、化ける、腹つづみ、巨大な陰嚢などの挙動を記す。
  6. 『本草和名』 深根輔仁 918
    狸・狢・猯をそれぞれの訓に分け、猫とも別項とする。漢字「狸」の指す動物が分かれてきた段階の記録。

ランキング順位Rankings

ゆかりの地Places

  • 佐渡島(新潟県)団三郎狸。寺社や祠が造営され、民間の祭祀の対象となった。
  • 淡路島(兵庫県)芝右衛門狸。江戸末期以降に大きな勢力をもった名のある狸として知られる。
  • 屋島(香川県)太三郎狸。寺社にまつられ、信仰の対象となった。
  • 徳島県金長狸・六右衛門狸が祠にまつられ、小僧狸・傘差し狸など土地ごとの変化譚も多い。
  • 松山市(愛媛県)お袖狸。寺社や祠が造営され、祭祀の対象となった。
  • 茂林寺(群馬県館林市)狸が守鶴という僧に化け、汲んでも尽きない茶を沸かしたとする文福茶釜の伝説地。

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よくある質問FAQ

化け狸とは何ですか?

化け狸とは、狸が人を化かしたり、人に化けたりするとされる日本の妖怪です。

化け狸はどこに現れますか?

日本全国で伝承がありますが、特に四国や九州に多く、徳島県の金長狸や熊本県の五家荘の狸が有名です。

化け狸の能力は?

人に化ける、物に化ける、火を灯す、人を惑わすなどの能力があるとされます。

化け狸はどこに伝わりますか?

沖縄県と南西諸島・伊豆諸島を除くほぼ全国に昔話や伝説があります。京都・大阪・江戸などの都市部でも親しまれ、佐渡島・淡路島・四国には近世から特に多くの記録が残ります。

化け狸の能力は何ですか?

他のものに化ける、人を化かす、人に憑くとされます。腹を叩いて腹鼓を鳴らし、巨大な陰嚢で人を襲う、あるいは座敷や寺院に見せかける話は、江戸期の『本朝食鑑』巻11にも見えます。

化け狸の弱点はありますか?

陰嚢を八畳の座敷や寺院に見せかけて化かそうとし、煙草の火や針を落とされて失敗する昔話が、明治から昭和前期にかけて各地で採取されています。

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最終更新: · 編集: 百鬼編集室