一反木綿
鹿児島県を中心に伝わる、夜に飛び、人の首に巻きつくとされる一反ほどの白い布の妖怪。

- 分類
- 器物の怪
- 分布
- 鹿児島県肝属郡
- 出没
- 夕暮れの空
- 弱点・対処
- 脇差で切りつける
- 主な初期記録
- 『大隅肝属郡方言集』(1936)
解説Overview
一反木綿は、鹿児島県肝属郡高山町に伝わる妖怪である。約一反の木綿のようなものが夕暮れ時にヒラヒラと飛び、人を襲うとされる。伝承地ではいったんもんめ、いったんもんめんとも呼ぶ。
野村伝四と柳田國男の『大隅肝属郡方言集』に見え、柳田の他の著書にも夜間に人を襲うとの記述がある。首に巻きついたり顔を覆ったりして窒息死させる、巻かれた反物のように回転しながら飛来し人を巻き込んで空へ飛び去る、などと語られる。夜に家路を急ぐ男の首に白い布が巻きつき、脇差で切りつけると布は消え、手に血が残ったという話もある。出没地では子供が遅くまで遊ぶのを戒める言葉として用いられ、肝付町では神社の上空を舞う一反木綿が最後尾の子供を襲うと信じられていた。伝承や目撃では目も腕もなく、布に似た飛行物体とされる。水木しげるの漫画『ゲゲゲの鬼太郎』で目と腕のある布として描かれて以降、その像が広く知られるが、水木の図は創作である。
名称と語源
一反木綿(いったんもめん)は、鹿児島県肝属郡高山町に伝わる妖怪の名である。地元出身の教育者・野村伝四と民俗学者・柳田國男の共著『大隅肝属郡方言集』が肝属郡の方言・伝承として採集し、村上健司『日本妖怪大事典』もこの漢字表記を項名に採る。書名が示すとおり、大隅の肝属郡で用いられた語である。
名は、反物の長さを数える単位「一反」に素材の「木綿」を重ねたものである。『大隅肝属郡方言集』の「約一反の木綿のようなもの」という言い回しは、姿を童子や獣にたとえず、布の寸法と材質で呼んだことを示しており、童子型・獣型ではなく器物を呼んだ名と読める。
漢字表記は「一反木綿」、標準の読みは「いったんもめん」である。伝承地の高山町では「いったんもんめ」「いったんもんめん」とも呼ばれる。語末が変化した方言形で、別種を指す異名ではない。国際日本文化研究センターの「怪異・妖怪伝承データベース」は、この名で伝承記録を収める。
出典: 〔1〕
姿かたち
『大隅肝属郡方言集』(1936年)は、約一反の木綿のようなものが夕暮れ時にヒラヒラと飛ぶと記す。白い布が巻かれた反物のようにくるくる回りながら飛来する、という描写もある。
一反木綿と名指した妖怪画は、古典の妖怪絵巻には確認されていない。『百鬼夜行絵巻』には手足の生えた布状のものが描かれるが、伝承の一反木綿を描いた図様ではない。水木しげるの漫画『ゲゲゲの鬼太郎』および『図説 日本妖怪大全』(1994年)は、二つの目と二本の腕を持つ布として描き、布に二つの目を添えた妖怪画が一反木綿のイメージとして定着した。同著者の妖怪画は創作である。
山口敏太郎『本当にいる日本の「現代妖怪」図鑑』(2007年)に寄せられた目撃では、目も腕もなく、布に似た飛行物体とされる。伝承地の鹿児島では低空を飛ぶ白い布のような物体、静岡県では透明なシーツ状で長方形に近く先端が尻尾状に細い、という報告がある。
性質と弱点
出没の時間は、『大隅肝属郡方言集』(1936年)では夕暮れ時、柳田國男の他の著書では夜間とされる。肝属郡の伝承として、人を襲うと記録されている。
害の仕方は三つに分かれる。首に巻きついて窒息死させる、顔を覆って息を止める、体に巻き込んで空へ飛び去る、と伝える。村上健司『日本妖怪大事典』(2005年)の「一反木綿」の項、および国際日本文化研究センターの「怪異・妖怪伝承データベース」に、人を襲う話型が記録されている。
弱点と対処: ある男が夜に家路を急いでいたところ、白い布が飛んで来て首に巻きついた。脇差で布を切りつけたところ、布は消え、男の手には血が残っていたという。伝承に見える対処は、この脇差で切りつける一事である。
人との関わり: 出没の伝えられる地方では、子供が遅くまで遊んでいると「一反木綿が出るよ」と戒める風習があった。肝付町では、よく現れるといわれる神社の前を通るとき、上空を舞う一反木綿が最後尾の子供を襲うと信じられ、子供たちは誰よりも先に走って通り抜けたという。遅くまで外にいること、列の最後になることが避けられた。
出典: 〔1〕
伝承・逸話
夜路の男と脇差: 鹿児島県肝属郡に次のような話が残る。ある男が夜に家路を急いでいたところ、白い布が飛んで来て首に巻きついた。男が脇差で布を切りつけたところ、布は消え、男の手には血が残っていたという。切ったあとに血が残る点で、布が単なる切れ地ではなかったとする筋である。同郡の記録としては、野村伝四と柳田國男の共著『大隅肝属郡方言集』に、木綿の怪が人を襲う旨がある。
遅くまで遊ぶ子への戒め: 村上健司『日本妖怪大事典』が扱う一反木綿は、鹿児島県肝属郡高山町に伝わる。出没の伝えられる地方では、子供が遅くなるまで遊んでいると「一反木綿が出るよ」と言って戒める風習があったと伝える。日が傾いても遊びをやめない子に対し、怪が出ると告げて家へ帰らせる、という筋である。
神社の前の最後尾: 肝付町では、一反木綿がよく現れるといわれる神社がある。子供たちがその神社の前を通るときには、上空を舞う一反木綿が最後尾の子供を襲うと信じられていた。列の後ろに残った子だけが襲われるという筋のため、子供たちは誰よりも先に走って通り抜けたと伝える。通る順番が襲われるか否かを分ける話として、社前の往来に結びついている。
空へ連れ去る: 人を体に巻き込んで空へ飛び去ってしまう、という話型も肝属郡に伝えられる。飛来した怪が通行人の体を巻き、空へ去るという筋で、首に巻きついて切りつけられる話とは結末が異なる。国際日本文化研究センターの『怪異・妖怪伝承データベース』は一反木綿に関する伝承記録を収める。
出典: 〔1〕
起源と解釈
戒めとしての解釈:一反木綿の出現が夕暮れ時とされることについて、親が農作業などで一日中働き、子供に目を配れない時間帯であったため、その話で遅くまで遊ぶなと戒めていた、との見方がある。野村伝四と柳田國男の共著『大隅肝属郡方言集』は、鹿児島県肝属郡高山町の伝承として夕暮れの飛来を記す。
葬送習俗からの推測:この伝承地では土葬の際に木綿の旗を立てて弔う風習があり、旗が風で空を舞ったことが木綿の妖怪という伝承につながった、という推測もある。『大隅肝属郡方言集』の肝属郡の記録を、葬送の器物から読む立場である。
少数説:民俗学者の小松和彦は、古典の妖怪絵巻『百鬼夜行絵巻』に描かれた手足の生えた布状のものを、一反木綿のルーツにあたるとの仮説を立てている。日本テレビの生活情報番組『所さんの目がテン』は、闇の中で50センチメートルほどの布を動かした実験で、見た者が平均2.19メートル、最長6メートルと証言したと報じ、陽性残像により白い物の動きが長く見えると説明した。同番組は、夜間の森を飛ぶムササビがこの錯覚で一反木綿と見間違えられた可能性を示唆している。『大隅肝属郡方言集』が記す飛来についても、ムササビが夜道を滑空して人の顔にへばりついたため妖怪と見なされたとの説がある。
出典: 〔1〕
史料の変遷
古典の妖怪絵巻『百鬼夜行絵巻』には、手足の生えた布状のものが描かれている。民俗学者・小松和彦は、これを一反木綿のルーツにあたるものとする仮説を立てている。一反木綿の名で古典絵巻に画が確認された記録はなく、名を伴う活字としては、野村伝四と柳田國男の共著『大隅肝属郡方言集』(1936年)が、鹿児島県肝属郡の方言・伝承として収めたものが早い。
かつては比較的無名であったが、水木しげるの漫画『ゲゲゲの鬼太郎』に登場して以降、名が広く知られるようになった。水木は『図説 日本妖怪大全』(1994年)にも図と項を立てたが、目と腕を持つ布の姿は創作であり、伝承側の記録とは図像の系統を分かつ。
村上健司『日本妖怪大事典』(2005年)は「一反木綿」の項を立て、国際日本文化研究センターの『怪異・妖怪伝承データベース』にも伝承記録が収められている。山口敏太郎『本当にいる日本の「現代妖怪」図鑑』(2007年)は、寄せられた布状の飛行物体の目撃談を収めており、方言集に始まる伝承採録とは異なる層の報告が資料化されている。
ゆかりの地
高山町(鹿児島県肝属郡):野村伝四と柳田國男『大隅肝属郡方言集』(1936年)が記す伝承地で、所在は鹿児島県肝属郡高山町である。
肝付町(鹿児島県):肝付町には一反木綿がよく現れるといわれる神社がある。その前を通る子供のうち最後尾が襲われると信じられ、先に走り抜けたという。社名は伝わらない。
東高円寺(東京都)/六甲山(兵庫県):山口敏太郎『本当にいる日本の「現代妖怪」図鑑』(2007年)は、東高円寺で犬の散歩中の女性が空を飛ぶ布を追った話と、2004年に兵庫県のUFOビデオ撮影友の会が六甲山上空の布状物体を撮影した事例を収める。同書は荻窪での目撃も記す。
現代の受容
水木しげるの漫画『ゲゲゲの鬼太郎』に一反木綿が登場して以降、この妖怪の名は全国に広まった。同作では九州弁で話す気のいい布として描かれ、人を襲うとする伝承とは裏腹に人気が高い。特撮『仮面ライダー響鬼』では、伝承を踏まえつつ外見や性格に独自の設定を加え、主人公側の敵として登場させた例がある。水木の出身地である鳥取県境港市の観光協会による「第1回妖怪人気投票」では1位に選ばれ、鹿児島県の郷土史家・竹ノ井敏は地元からも忘れられつつある民話を子供たちに覚えてもらうため、2007年より一反木綿の紙芝居を製作して活動を始めている。
水木の妖怪画および『ゲゲゲの鬼太郎』のキャラクターは、二つの目と二本の腕を持つ布の姿である。1994年の『図説 日本妖怪大全』にもその図と項があり、目と腕のある布という像が定着した。この造形は創作であり、伝承では目も腕もなく、布に似た飛行物体とされる。
出典・参考文献References
- 『大隅肝属郡方言集』 野村伝四・柳田國男(刀江書院) 1936約一反の木綿のようなものが夕暮れ時にヒラヒラと飛んで人を襲うと記す、肝属郡の方言・伝承としての記録。
- 『ゲゲゲの鬼太郎』 水木しげる(講談社)一反木綿を九州弁で話す気のいい布のキャラクターとして描き、全国的な知名度を与えた。
- 『図説 日本妖怪大全』 水木しげる(講談社) 1994一反木綿の図と項。目と腕を持つ布の姿は同著者の創作である。
- 『本当にいる日本の「現代妖怪」図鑑』 山口敏太郎(笠倉出版社) 2007山口敏太郎のもとに寄せられた、布状の飛行物体の近年の目撃談を収める。
ランキング順位Rankings
ゆかりの地Places
- 高山町(鹿児島県肝属郡)一反木綿の伝承地。いったんもんめ、いったんもんめんとも呼ばれる。
- 肝付町(鹿児島県)一反木綿がよく現れるといわれる神社があり、子供たちは最後尾を襲われると信じ走って通り抜ける。
- 東高円寺(東京都)犬の散歩中の女性が空を飛ぶ布を目撃し、しばし追跡したという。
- 六甲山(兵庫県)2004年、UFOビデオ撮影友の会が布状の飛行物体を撮影したと伝える。
- 境港(鳥取県)水木しげるの出身地。観光協会の第1回妖怪人気投票で一反木綿が1位になった。
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よくある質問FAQ
一反木綿は実在しますか?
いいえ、一反木綿は伝承上の妖怪であり、実在は確認されていません。
一反木綿はどこで生まれましたか?
鹿児島県の肝属郡や曽於郡などで伝承されています。
一反木綿の弱点は何ですか?
伝承には弱点に関する記述はほとんどありません。はっきりしたことは不明です。
一反木綿とは何ですか?
鹿児島県肝属郡高山町に伝わる妖怪で、約一反の木綿のようなものが夕暮れ時に飛び、人の首に巻きついたり顔を覆ったりして窒息死させるとされる。伝承地ではいったんもんめ、いったんもんめんとも呼ぶ。
一反木綿はどこに伝わりますか?
文献上の伝承地は鹿児島県肝属郡高山町である。肝付町では、一反木綿がよく現れるといわれる神社の前を子供が通るとき、最後尾の子供を襲うと信じられていた。近年の目撃談は福岡県、東京都、静岡県、兵庫県にも及ぶ。
一反木綿に目や腕はありますか?
水木しげるの漫画『ゲゲゲの鬼太郎』では目と腕のある布として描かれ、その像が広く知られる。水木の図は創作であり、伝承や目撃談では目も腕もなく、布に似た飛行物体とされる。
最終更新: · 編集: 百鬼編集室

