手の目
手の目(てのめ)は、両眼のない男の両手の掌に目玉が付いた姿の日本の妖怪。江戸時代の怪談集に描かれ、夜道で人を襲うとされる。

- 分類
- 僧形の怪
- 分布
- 京都・岩手・越後
- 出没
- 墓場・野原・草村
- 弱点・対処
- 定型の対処なし
- 主な初期記録
- 『画図百鬼夜行』(1776)
解説Overview
手の目(てのめ)は、鳥山石燕『画図百鬼夜行』(1776年)に描かれた座頭姿の妖怪で、両目は顔ではなく両手の平に一つずつ付く。同書に解説文はなく、図以外の性質はそこからは分からない。熊本県八代市松井文庫蔵の天保期『百鬼夜行絵巻』は同じ姿を「手目坊主」と記すが、絵中に説明はない。
掌に目のある化け物の話は、先立つ『諸国百物語』(1677年)「ばけ物に骨をぬかれし人の事」にある。京都の七条河原の墓場で八十歳ほどの老人に襲われた男が、寺の長持ちに隠れたのち、骨を抜かれて皮ばかりになったという。石燕がこれを図の手がかりにしたのではないか、とする見方がある。
呼び名は「手の目」と「手目坊主」。姿は座頭で掌に目玉。性質は文献で分かれ、骨を抜くとする怪談と、殺された盲人の怨みが掌に目を得て人を捜すとする岩手・越後の話がある。乾猷平が紹介した古写絵本は、荒れた草村に「天地のせいせい」で生じると記す。絵と怪談と後世の民話が並び、一地方に限らない。
名称と語源
「手の目」は鳥山石燕の画集『画図百鬼夜行』(1776年)に付された項目名で、読みは「てのめ」である。同書に解説文はなく、名の由来を石燕自身が記した箇所はない。それより前の怪談集『諸国百物語』(1677年)には、両手に目のついている化け物の挿絵付きで「ばけ物に骨をぬかれし人の事」という説話がある。話の題に「手の目」の名はなく、石燕がこれを「手の目」のモデルにしたのではないかと考えられている。
熊本県八代市の松井文庫が所蔵する天保年間の『百鬼夜行絵巻』は、石燕図と同じ姿の画に「手目坊主(てめぼうず)」と記す。「坊主」を添えた呼び名は、僧形の怪として図が受けとめられた系統を示す。乾猷平は『蕪村妖怪絵巻解説─附・化物づくし』(1928年)で、紫水文庫所蔵の年代不明の古写絵本にも「手の目」と描かれていることを紹介する。藤沢美雄『岩手の妖怪物語』(1986年)では、殺された盲人の怨みが「手の目」になったと語られ、越後(新潟県)にも同様の話があるとする。ここでは名が死霊の呼称として用いられている。
語源説として、多田克己は『妖怪図巻』(2000年)で、目のついた手を上げる様子を悪巧みやイカサマを明かす「手目を上げる」に通じ、坊主頭を「はげる」や勝負の負けを意味する「坊主になる」に通じる絵解きを示した。手の目に類する妖怪の名として、山田野理夫は『妖怪魔神精霊の世界』(1974年)にくらやみ目を挙げるが、山田は伝承にない妖怪を多く書いたことで知られ、くらやみ目は山田の創作である可能性がある。
姿かたち
鳥山石燕『画図百鬼夜行』(1776年)は、座頭姿の人物の両目を顔ではなく両手の平に一つずつ置く。多田克己によれば、図には目玉のついた手を上げた仕草と坊主頭があり、背景に月とススキの野原が描かれている。姿を説明する文は図に付いていない。
『諸国百物語』(1677年)「ばけ物に骨をぬかれし人の事」は挿絵に両手に目のついた妖怪を描き、本文では八十歳ほどの老人で手の平に目玉があるとする。掌の目は石燕と共通するが、座頭ではなく老人として記される。
熊本県八代市の松井文庫が所蔵する天保年間の『百鬼夜行絵巻』には、石燕の図をモチーフとしたと思われる同じ姿が描かれ、「手目坊主」と記されている。湯本豪一所蔵の『化物づくし』(湯本B本)にも同様の図があり、いずれも絵中に説明はない。石燕以後の絵巻はこの姿を写しており、顔に目がなく両手の平に目玉がある座頭という型が画系で繰り返された。藤沢美雄『岩手の妖怪物語』(1986年)が伝える岩手の話では、近づくのは盲人で、両手の平の目玉で何かを捜すとされ、図の座頭と民話の盲人は顔ではなく掌で見る点で重なる。
性質と弱点
手の目が人に対して何をするかは、鳥山石燕『画図百鬼夜行』(1776年)に解説文がなく、説話に残る行為から知るほかない。
『諸国百物語』(1677年)の「ばけ物に骨をぬかれし人の事」は、京都の七条河原の墓場で掌に目玉のある八十歳ほどの老人の化け物が男を襲い、近くの寺まで追い、長持ちのそばで犬が骨をしゃぶるような音を立てたのち、男の骨を抜き取って皮ばかりにしたと記す。寺への逃げ込みも長持ちへの潜伏も、この話では害を止めなかった。
藤沢美雄『岩手の妖怪物語』(1986年)が伝える岩手県の話では、夜の野原を歩く旅人に、掌の目で何かを捜す盲人が近づく。宿の主人は、数日前に悪党に金を奪われて殺された盲人が、悪党たちの顔を一目見たいという怨みから手の目になったと答え、越後(新潟県)でも盲人が殺された際に同様に現れたとする。
乾猷平は『蕪村妖怪絵巻解説─附・化物づくし』(1928年)で、紫水文庫所蔵の古写絵本(年代不明)に「あれたる草村抔に天地のせいせいにて生ずと云」とあることを紹介する。荒れた草村に生じるという記述はあるが、好む供物や定型の弱点・禁忌は同書にも石燕の図にもなく、人を助ける話も『諸国百物語』と藤沢の採録には見えない。
伝承・逸話
ばけ物に骨をぬかれし人の事: 江戸時代の怪談集『諸国百物語』(1677年)に、両手に目のついている妖怪の姿が挿絵にも描かれた説話がある。ある男が京都の七条河原の墓場に肝試しに行ったところ、80歳くらいの老人の化け物に襲われ、その化け物には手の平に目玉があった。男は近くの寺に逃げ込み、その寺の僧に頼んで長持ちの中にかくまってもらった。化け物は追いかけてきて、長持ちのそばで犬が骨をしゃぶるような音を立て、やがて消え去った。僧が長持ちを開けると、男は体から骨を抜き取られて皮ばかりになっていたと、同書は伝える。
岩手の手の目: 藤沢美雄『岩手の妖怪物語』(1986年)は、岩手県に伝わる民話として次の話を載せる。ある旅人が夜に野原を歩いていたところ、盲人が近づいて来た。その盲人の両手の平に目玉があり、その目で何かを捜している様子だった。旅人は驚いて逃げ出し、宿へ駆け込んだ。宿の主人に事情を話したところ、主人はこう答えたという。あの場所では数日前に盲人が悪党に殺されて金を奪われ、その盲人が悪党たちの顔を一目見たい、目が見えないのならせめて手に目があれば、という強い怨みが手の目という妖怪になったのだと。
越後の手の目: 藤沢美雄『岩手の妖怪物語』は、越後(新潟県)でも同様に盲人が殺された際に手の目が現れたと伝える。筋の細部は岩手の話ほどは記されていない。
くらやみ目: 手の目に類する妖怪として、山田野理夫は『妖怪魔神精霊の世界』(1974年)でくらやみ目を述べる。両の膝頭に目があり、暗闇でも平気で歩けるが、昼間は物にぶつかったりするという。山田は本来存在しない妖怪伝承を多数創作したことで知られ、くらやみ目は山田の創作である可能性がある。誰がどこで遇ったかという一件は、同書の解説以外には見えない。
起源と解釈
定説:先行怪談を手がかりとする見方。鳥山石燕『画図百鬼夜行』(1776年)は「手の目」を画題として立てるが、成り立ちを説明する本文は無い。両手に目のある化け物を挿絵にした『諸国百物語』(1677年)の「ばけ物に骨をぬかれし人の事」を、石燕が図の手がかりにしたのではないかとする説がある。
生成と怨み:古い絵本と民話。乾猷平『蕪村妖怪絵巻解説─附・化物づくし』(1928年)は、紫水文庫所蔵の古写絵本(年代不明)に「手の目」があり、「あれたる草村抔に天地のせいせいにて生ずと云」と記すことを紹介する。藤沢美雄『岩手の妖怪物語』(1986年)が伝える岩手県の民話は、悪党に殺された盲人の怨みから掌に目を得て手の目になったとし、越後(新潟県)にも同様の話があるとする。全国共通の起源説としては示されていない。
絵解き:多田克己は『妖怪図巻』(2000年)で、「手の目」などの妖怪画を「化けの皮がはげる」の言葉遊びと読む。掌の目を上げる仕草は「手目を上げる」に、坊主頭は「はげる」「坊主になる」に通じ、背景の月は花札の「坊主」、ススキは「幽霊の正体見たり枯れ尾花」の洒落だという。
少数説:くらやみ目。山田野理夫は『妖怪魔神精霊の世界』(1974年)で、両膝頭に目のある「くらやみ目」を手の目に類すると記した。山田は伝承にない妖怪を多数書いたことで知られ、くらやみ目は創作の可能性がある。
史料の変遷
説話の挿絵と画題:1677年の『諸国百物語』に、両手に目のついた化け物の挿絵を伴う「ばけ物に骨をぬかれし人の事」が載る。1776年、鳥山石燕『画図百鬼夜行』が「手の目」を項目として立てる。同書に解説文はなく、説話と挿絵が画集の項目名に先立つ形である。
絵巻への転写:天保年間、熊本県八代市の松井文庫が所蔵する『百鬼夜行絵巻』は、石燕の「手の目」をモチーフとしたと思われる同じ姿を描き、「手目坊主(てめぼうず)」と記す。湯本豪一所蔵の『化物づくし』(湯本B本)にも同様の図がある。いずれの絵巻も説明を欠き、記録は図と異名にとどまる。
近代の紹介:1928年、乾猷平は紫水文庫所蔵の古写絵本(年代不明)に「手の目」があり、「あれたる草村抔に天地のせいせいにて生ずと云」と記すことを紹介した。由来を記した絵本の存在が、この年の活字で知られる。
昭和以後の採録と整理:1974年刊の『妖怪魔神精霊の世界』で、山田野理夫は膝頭に目のある「くらやみ目」を手の目に類するとして記した。山田は本来存在しない妖怪伝承を多数書いたことで知られ、くらやみ目も創作である可能性がある。1986年、藤沢美雄『岩手の妖怪物語』が岩手県の民話として手の目を採録し、越後にも同様の話があるとする。2000年、村上健司編著『妖怪事典』が石燕図と関連話を整理し、同年の多田克己『妖怪図巻』が図像の読みを示した。
ゆかりの地
七条河原(京都): 『諸国百物語』(1677年)は、舞台を京都の七条河原の墓場とする。訪ね得るのは京都の七条河原という地名であり、碑や社、祭りを記す記述はない。
岩手県・越後(新潟県): 藤沢美雄『岩手の妖怪物語』(1986年)は、岩手県に「手の目」の民話があると伝え、越後(新潟県)でも同様の話があるとする。舞台は夜の野原であり、村名・社寺・碑の所在は記されていない。
松井文庫(熊本県八代市): 熊本県八代市の松井文庫は、天保年間の妖怪絵巻『百鬼夜行絵巻』を所蔵する。同絵巻には「手目坊主(てめぼうず)」と記された図がある。
現代の受容
事典と図巻:2000年、村上健司編著『妖怪事典』は手の目の項を設け、鳥山石燕の図と関連話を整理して示す。同年、京極夏彦が文を担当し多田克己が編集・解説した『妖怪図巻』が刊行され、手の目は図版解説の対象として活字になった。
通俗書での拡張:1974年刊、山室静・山田野理夫・駒田信二執筆代表『妖怪魔神精霊の世界』は、両の膝頭に目があり暗闇でも平気で歩ける「くらやみ目」を手の目に類する妖怪として記す。山田は伝承にない妖怪を多数書いたことで知られ、くらやみ目は山田の創作である可能性がある。通俗案内が類例を足して見せる像と、伝承の裏付けを要する像とは、ここで分かれる。
民話の活字化:1986年、藤沢美雄『岩手の妖怪物語』は副題を「岩手妖怪譚-炉端ばなし」とし、岩手の民話として手の目を活字にした。
出典・参考文献References
- 『画図百鬼夜行』 鳥山石燕 1776手の目の図。座頭姿で両手の平に目玉が一つずつ。解説文はない。
- 『諸国百物語』 1677「ばけ物に骨をぬかれし人の事」。京都七条河原で掌に目のある老人が男の骨を抜く話と挿絵。石燕の図の手がかりと見る説がある。
- 『蕪村妖怪絵巻解説─附・化物づくし』 乾猷平(北田紫水文庫) 1928紫水文庫蔵の古写絵本に「手の目」があり、「あれたる草村抔に天地のせいせいにて生ずと云」と記すことを紹介する。
- 『岩手の妖怪物語』 藤沢美雄(トリョーコム) 1986岩手の民話として、殺された盲人の怨みが掌に目を得て人を捜す話を伝え、越後にも同様の話があるとする。
- 『妖怪図巻』 多田克己(国書刊行会) 2000掌の目を上げる姿を「手目を上げる」、坊主頭を「はげる」「坊主になる」に通じる絵解きとし、背景の月とススキを花札と枯れ尾花の洒落と見る。
- 『妖怪事典』 村上健司(毎日新聞出版) 2000現代の妖怪事典。手の目の項で石燕図と関連話を整理する。
- 『妖怪魔神精霊の世界』 山田野理夫(自由国民社) 1974膝頭に目があり暗闇を歩ける「くらやみ目」を手の目に類するとして記す。山田は伝承にない妖怪を多く書いたことで知られる。
ランキング順位Rankings
ゆかりの地Places
- 七条河原(京都府)『諸国百物語』で掌に目のある化け物が肝試しの男を襲った墓場。
- 岩手県藤沢美雄が、殺された盲人の怨みが手の目になったとする民話を伝える。
- 越後(新潟県)藤沢美雄によれば、岩手と同様に殺された盲人の手の目が現れたという。
- 八代(熊本県)松井文庫が天保期『百鬼夜行絵巻』の手目坊主図を所蔵する。
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よくある質問FAQ
手の目とは何ですか?
手の目(てのめ)は、両手の掌に目が付いた盲目の男の姿で描かれる日本の妖怪です。江戸時代の怪談集に記録があり、夜道で人を驚かせたり襲ったりするとされます。
手の目はどこに現れますか?
特定の地域に限らず、全国的に夜道や旅の途中で遭遇する話が伝わっています。
手の目は実在しますか?
手の目は伝承上の妖怪であり、実在する生物ではありません。江戸時代の怪談集や民俗学の資料に記録が残っています。
手の目は何をする妖怪ですか?
『諸国百物語』「ばけ物に骨をぬかれし人の事」では、掌に目のある老人が男を襲い、隠れても骨を抜いて皮だけにしました。岩手の話では、殺された盲人が悪党の顔を見ようと掌に目を得て人を捜します。
手目坊主と手の目は同じですか?
熊本県八代市松井文庫蔵の天保期『百鬼夜行絵巻』は、石燕の手の目と同じ姿に「手目坊主」と記します。絵巻中に説明はなく、別種とする根拠はそこにはありません。
くらやみ目と手の目の関係は?
山田野理夫が1974年刊『妖怪魔神精霊の世界』で、膝頭に目があり暗闇を歩ける「くらやみ目」を手の目に類すると記しました。山田は伝承にない妖怪を多く書いたことで知られ、くらやみ目も創作の可能性があります。
最終更新: · 編集: 百鬼編集室

