釣瓶落とし

つるべおとしtsurube-otoshi

釣瓶落としとは、京都の比叡山周辺で夕暮れに井戸の釣瓶を落とす音を立て、木の上から人を襲うとされる妖怪。

イメージ画(当サイト制作)
分類
山の怪
分布
近畿・東海
出没
大木の上
弱点・対処
記録なし
主な初期記録
『古今百物語評判』

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解説Overview

釣瓶落とし(つるべおとし)、別名釣瓶下ろし(つるべおろし)は、大木の上から落ちてきて人を襲い、ときに食い殺すとされる妖怪である。名称が確認できるのは東海地方と近畿地方に限られ、釣瓶そのものが落ちる話もその範囲に集中する。

姿は土地ごとに揺れる。京都府亀岡市曽我部町では榧の木から落ちて笑い、「夜業すんだか、釣瓶下ろそか」と言って再び上がる。同地の字寺では古い松から生首が降りて人を喰らい、和歌山県海南市黒江では松の根元の釣瓶に人が引き込まれ、木の上へ引き上げられる。岐阜県揖斐川町津汲と滋賀県彦根市では、木の上から釣瓶を落とす。

江戸の『古今百物語評判』は「釣瓶おろし」を大木の精が火の玉となって降りる怪異とし、五行説で説明する。鳥山石燕『画図百鬼夜行』はこれを「釣瓶火」として描いた。昭和以降の事典では、落ちる生首や釣瓶と、枝にぶら下がる怪火とを別物とするのが通例である。

名称と語源

釣瓶落とし(つるべおとし)は釣瓶下ろし(つるべおろし)とも記す。釣瓶は井戸の桶を指す語で、木の上から落ち、あるいは釣瓶を落とす怪異の呼び名として用いられる。江戸時代の怪談本『古今百物語評判』は「釣瓶おろし」の表記を用い、大正時代の郷土研究資料『口丹波口碑集』に採られた口丹波の口承も「釣瓶下ろし」と呼ぶ。

「釣瓶下し」「釣瓶落とし」の名称が確認できるのは東海地方と近畿地方に限られ、釣瓶が落ちる話型もそれらの地域に集中する。ほかの土地では木から火の玉が落ちる、焼けた鍋が落ちるなど火にかかわる類話が多く、名称は異なる。山形県山辺町では鍋下ろし(なべおろし)といい、スギの木の上から真っ赤に焼けた鍋が降りてくると伝える。

鳥山石燕の妖怪画集『画図百鬼夜行』は、『古今百物語評判』で火の玉として記された「釣瓶おろし」を「釣瓶火」として描いた。釣瓶落としの名は釣瓶の落下を、釣瓶火の名は怪火を示す。本来は釣瓶落としも釣瓶火と同様、木から釣瓶のようにぶらさがる怪火だったとする説もある。

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姿かたち

山岡元隣『古今百物語評判』では、「釣瓶おろし」は大木の精霊が火の玉となって降りてくる姿として描かれている。鳥山石燕の『画図百鬼夜行』はこの火の玉を「釣瓶火」として図化しており、釣瓶落としの図ではない。

大正期の郷土研究資料『口丹波口碑集』(垣田五百次・坪井忠彦)が記す口丹波の口承では、京都府南桑田郡曽我部村字法貴(現・亀岡市曽我部町)でカヤの木から落ちてゲラゲラと笑い、同村字寺では古い松から生首が降りてくるという。岐阜県揖斐郡久瀬村津汲と滋賀の彦根市では大木の上や枝から釣瓶を落とすと伝え、和歌山県海南市黒江の元禄年間の譚では古い松の根元の釣瓶に光る物が見えるという。釣瓶の落ちる姿が伝えられるのは東海地方・近畿地方に限られ、ほかでは木から火の玉や焼けた鍋が落ちる例が多い。

昭和・平成以降の妖怪関連の文献では、生首や釣瓶が落ちてくる釣瓶落としと、木からぶら下がる怪火の釣瓶火とを別個に扱うことがほとんどである。本来はどちらも木から釣瓶のようにぶらさがる怪火だったとする説もある。

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性質と弱点

木の上から落ちて人を襲い、人を食うとされる。大正期の口丹波口承を収めた『口丹波口碑集』によれば、京都府南桑田郡曽我部村字寺では古い松から生首が降りて人を喰らい、飽食するのか当分は現れず、二、三日経つとまた現れるという。大井村字土田でも人を食うといわれ、京都府船井郡富本村ではツタの巻きついた松に出るとして恐れられた。

曽我部村字法貴では、カヤの木から突然落ちてゲラゲラと笑い、「夜業すんだか、釣瓶下ろそか、ぎいぎい」と言って再び木へ上がり、人を襲ったとは記さない。岐阜県揖斐郡久瀬村津汲では昼でも薄暗いところにある大木の上におり、釣瓶を落としてくるといい、滋賀の彦根市でも木の枝から通行人目がけて釣瓶を落とすと伝える。

和歌山県海南市黒江の元禄年間の話では、古い松の根元の釣瓶を覗き光る物に手を伸ばすと引き込まれ、脅かされるか食い殺されるか、地面に叩きつけられるという。好むものや人への恩、弱点や祓いの法はこれらの資料に見えない。兵庫県丹波篠山市の篠山城下では、夜に榧の下を通ると生首が落ちるという話があったが、髪を付けた徳利を釣り上げて落とす芝居であり、妖怪ではなかった。

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伝承・逸話

榧から落ちて笑う釣瓶下ろし:大正時代の郷土研究資料として池田彌三郎他編『日本民俗誌大系』第4巻に収められた垣田五百次・坪井忠彦『口丹波口碑集』(1975年)の口丹波口承によれば、京都府南桑田郡曽我部村字法貴(現・亀岡市曽我部町)では、釣瓶下ろしはカヤの木の上から突然落ちてきてゲラゲラと笑い出す。笑いながら「夜業すんだか、釣瓶下ろそか、ぎいぎい」と言い、再び木の上に上がっていくという。

ツタの松に出る釣瓶下ろし:同書によれば、京都府船井郡富本村(現・南丹市八木町)にはツタが巻きついて不気味な松の木があり、そこに釣瓶下ろしが出るとして恐れられた。大井村字土田(現・亀岡市大井町)でも、釣瓶下ろしが人を食うといわれた。

大木から釣瓶を落とす:千葉幹夫編『全国妖怪事典』(1995年)と村上健司編著『日本妖怪大事典』(2005年)が掲げる事例では、岐阜県揖斐郡久瀬村(現・揖斐川町)津汲で、昼でも薄暗いところにある大木の上に釣瓶下ろしがおり、釣瓶を落としてくるという。滋賀県彦根市でも、木の枝にいる釣瓶下ろしが通行人目がけて釣瓶を落とすといわれた。

元禄の黒江の松:両事典が記す和歌山県海南市黒江の元禄年間の妖怪譚では、古い松の大木の根元にある釣瓶を通行人が覗くと光る物があり、小判かと思って手を伸ばすと釣瓶の中へ引き込まれ、木の上へ引き上げられる。木の上に住む釣瓶落としに脅かされる者、食い殺される者、地面に叩きつけられて命を落とす者があったという。

坪井の榧の木:両事典が挙げる兵庫県丹波篠山市の篠山城下伝承では、篠山の怪談七不思議のひとつとして「坪井の榧の木」がある。篠山城の東馬出付近に坪井という旧士族の屋敷があり、幽気を出す榧の大木があった。夜にこの木の下を通ると生首が落ちてくるといわれたが、髪の毛を付けた徳利を釣り上げたうえで落とす芝居であり、本物の妖怪ではなかった。

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起源と解釈

五行説による説明: 山岡元隣は『古今百物語評判』で「釣瓶おろし」を、気が木火土金水の五つの相に変転して万物をなす五行説によって大木の精と説いた。雨の日(水)に木より降りてくる火であり、水・木・火の相生をなすとする。若い木はまだ生を尽くさず木の気を満たさないので次の気を生じず、大木となってはじめて火を生ずる。その火は陰火であるため雨の日に現れるという。この説明の現行本文は、高田衛編『江戸怪談集』下巻に収められている。

通説と少数説: 鳥山石燕『画図百鬼夜行』が『古今百物語評判』の火の玉「釣瓶おろし」を「釣瓶火」として描いたことを起点に、千葉幹夫編『全国妖怪事典』(1995年)や村上健司編著『日本妖怪大事典』(2005年)など昭和・平成以降の文献では、釣瓶落としを生首や釣瓶が落ちてくる妖怪、釣瓶火を木からぶら下がる怪火として分けるのが通説である。少数説として、本来は釣瓶落としも釣瓶火と同様、木から釣瓶のようにぶらさがる怪火だったとする見方がある。

分布からみた話型: 千葉幹夫編『全国妖怪事典』が整理する類話では、類似の怪異はほぼ日本全国にあるが名称のないものが多く、「釣瓶下し」「釣瓶落とし」の名称と釣瓶が落ちる話は東海地方・近畿地方に限られる。他地域は山形県山辺町の鍋下ろしなど、火に関わる話型が多い。

出典: 〔1〕〔2〕〔4〕〔5〕〔6〕

史料の変遷

山岡元隣『古今百物語評判』は「釣瓶おろし」の名でこの怪異を記す。現行本文は山岡元恕・高田衛編『江戸怪談集』下(1989年)に収められている。和歌山県海南市黒江には元禄年間の妖怪譚も伝わる。

鳥山石燕『画図百鬼夜行』(1776年)は題を「釣瓶火」とし、釣瓶落としの図ではない。昭和・平成以降の妖怪関連文献では、釣瓶落としと釣瓶火を別々の妖怪として扱うことがほとんどである。

大正時代の郷土研究資料である垣田五百次・坪井忠彦『口丹波口碑集』は、池田彌三郎他編『日本民俗誌大系』第4巻近畿(1975年)に収められた。

兵庫県丹波篠山市の篠山城下に伝わる篠山の怪談七不思議のひとつ「坪井の榧の木」は、生首が落ちると記されたが、髪を付けた徳利を落とす芝居であったとされる。

類話はほぼ全国にあるが、「釣瓶下し」「釣瓶落とし」の名称が確認できるのは東海地方と近畿地方に限られる。千葉幹夫編『全国妖怪事典』(1995年)と村上健司編著『日本妖怪大事典』(2005年)が各地事例と類話の整理に用いられる。

出典: 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕〔5〕〔6〕

ゆかりの地

口丹波の伝承地は、現在の行政区画では京都府亀岡市と南丹市に分かれる。垣田五百次・坪井忠彦『口丹波口碑集』が記す南桑田郡曽我部村字法貴は亀岡市曽我部町、同村字寺も同町内、船井郡富本村は南丹市八木町、大井村字土田は亀岡市大井町にあたる。対象は榧や松といった大木で、同書は碑・社寺・祭りの所在を記さない。

千葉幹夫編『全国妖怪事典』(1995年)と村上健司編著『日本妖怪大事典』(2005年)が掲げる近畿・東海の事例では、岐阜県揖斐川町津汲(旧揖斐郡久瀬村)と滋賀県彦根市に枝から釣瓶を落とす大木があり、和歌山県海南市黒江には古い松の大木が伝わる。いずれも木の伝承地であり、祭りや観光施設の記述はない。

出典: 〔3〕〔5〕〔6〕

現代の受容

事典における項立て:昭和・平成以降の妖怪関連の文献では、釣瓶落としは生首や釣瓶が落ちてくる妖怪、釣瓶火は木からぶら下がる怪火として、別々の妖怪として扱われることがほとんどである。千葉幹夫編『全国妖怪事典』(小学館ライブラリー、1995年10月)と村上健司編著『日本妖怪大事典』(角川書店〈Kwai books〉、2005年7月16日)は、この区分を前提に各地の事例と類話を整理している。

民俗像と後世の像:後世に流通した像は落下する生首や釣瓶の怪異であり、鳥山石燕『画図百鬼夜行』(1776年)が火の玉を「釣瓶火」として描いて以降、名称と姿が分かれて読まれる。本来は釣瓶落としも釣瓶火と同様、木から釣瓶のようにぶらさがる怪火だったとする説があり、民俗学上の像と事典の項立ては一致しない。

出典: 〔1〕〔2〕〔5〕〔6〕

出典・参考文献References

  1. 『古今百物語評判』 山岡元隣
    「釣瓶おろし」として大木の精が火の玉となって降りることを描き、五行の相生により大木の精と説明する。
  2. 『画図百鬼夜行』 鳥山石燕 1776
    『古今百物語評判』の火の玉「釣瓶おろし」を「釣瓶火」として描く。釣瓶落としの図ではない。
  3. 『口丹波口碑集』 垣田五百次・坪井忠彦(角川書店) 1975
    大正期の口丹波口承。曽我部村字法貴の榧から落ちて笑う釣瓶下ろし、字寺の松の生首、富本村の松、大井村字土田の人食いを記す。
  4. 『江戸怪談集』 高田衛(岩波書店) 1989
    下巻に山岡元隣『古今百物語評判』を収める。釣瓶おろしの五行説を読む現行テキスト。
  5. 『全国妖怪事典』 千葉幹夫(小学館) 1995
    現代の妖怪事典。本項の参考文献に挙がり、各地事例と類話の整理に用いられる。
  6. 『日本妖怪大事典』 村上健司(角川書店) 2005
    現代の妖怪事典。本項の参考文献に挙がる。

ランキング順位Rankings

ゆかりの地Places

  • 曽我部(京都府)旧南桑田郡曽我部村字法貴。榧から落ちて笑う釣瓶下ろしと、字寺の松から降りる生首の話が残る。
  • 八木(京都府)旧船井郡富本村。ツタの巻きついた松に釣瓶下ろしが出ると恐れられた。
  • 土田(京都府)旧大井村字土田(現・亀岡市大井町)。釣瓶下ろしが人を食うとされた。
  • 津汲(岐阜県)旧揖斐郡久瀬村津汲。昼でも薄い大木の上から釣瓶を落とすとされた。
  • 彦根(滋賀県)木の枝にいる釣瓶下ろしが通行人へ釣瓶を落とすとされた。
  • 黒江(和歌山県)元禄年間の話。松の根元の釣瓶に引き込まれ、木の上の釣瓶落としに脅かされ、食い殺され、あるいは叩きつけられる。

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よくある質問FAQ

釣瓶落としはどこに現れる?

京都の比叡山周辺や滋賀県の山間部など、近畿地方の井戸のある場所に現れるとされる。

釣瓶落としの正体は?

正体は不明だが、井戸に落ちた者の怨念や、釣瓶が自然に落ちる音を妖怪と見なしたものなど、諸説ある。

釣瓶落としは人を食べる?

人を襲うとされるが、食べるという記述はない。井戸に引きずり込むとも言われる。

釣瓶落としと釣瓶火は同じか?

『古今百物語評判』の火の玉「釣瓶おろし」を、石燕は『画図百鬼夜行』で「釣瓶火」として描いた。昭和以降の事典では、落ちる生首・釣瓶と、枝にぶら下がる怪火とを別物とするのが通例である。

釣瓶落としの姿は?

一定しない。榧や松の大木から落ちて笑うもの、生首、落とされる釣瓶、火の玉となった大木の精など、土地と史料によって描写が分かれる。

篠山の生首落としは釣瓶落としか?

丹波篠山市の「坪井の榧の木」は、夜に生首が落ちるとされたが、髪を付けた徳利を釣り上げて落とす芝居であり、本物の妖怪ではなかった。

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最終更新: · 編集: 百鬼編集室