口裂け女
口裂け女とは、口が耳まで裂けた女の怪異で、1979年に日本全国で噂された都市伝説。

- 分類
- 都市伝説
- 分布
- 日本全国
- 出没
- 通学路・夜道
- 弱点・対処
- ポマード・べっこう飴
- 主な初期記録
- 『岐阜日日新聞』(1979)
解説Overview
口裂け女(くちさけおんな)は、マスクで口元を隠した若い女が学校帰りの子供に「私、綺麗?」と訊ねる都市伝説である。1979年の春から夏に日本全国へ広がり、社会問題となった。「きれい」と答えるとマスクを外し耳元まで裂けた口を見せ、「きれいじゃない」と答えると包丁や鋏で斬り殺される、というのが基本の話型である。
噂は1978年12月初めに岐阜県で起こり、マスコミ初出は1979年1月26日の岐阜日日新聞とされる。『週刊朝日』同年6月29日号は、岐阜県本巣郡真正町で農家の老婆が口裂け女を見て腰を抜かしたという噂を紹介した。6月ごろまでにほぼ全国へ広がり、8月、夏休みで子供の口コミが途絶えて急速に沈静化した。
姿は土地ごとに揺れ、岐阜の初期噂では女優似の美人、赤い服や白い服、鋏・包丁などの刃物を持つ、とされる。対処法としてポマードを唱える、べっこう飴を与える話が広く知られた。発祥は中京、とくに岐阜県近辺とする点は諸説でほぼ一致する。2004年には韓国でも流行した。
名称と語源
「口裂け女」(くちさけおんな)は、口が耳まで裂けた女の怪異を指す呼び名である。語は「口」「裂ける」「女」を重ねたもので、方言や職能にさかのぼる語源説は伝わっていない。マスコミに初めて登場したのは1979年1月26日付『岐阜日日新聞』のコラムとされ、平泉悦郎は同年6月29日号『週刊朝日』83巻27号に『全国の小中学生を恐れさせる「口裂け女」風説の奇々怪々』としてこの名を載せた。
同じ名は江戸時代の怪談集『怪談老の杖』にも見える。ただし同書は江戸近郊に狐が化けた「口裂け女」を記すにとどまり、1979年の都市伝説とは別系統の記録である。
山口敏太郎『本当にいる日本の「現代妖怪」図鑑』(2007年)は、この名を現代妖怪として収録する。愛媛県と徳島県では「口割れ女」という異名が伝わり、地元新聞社が口裂け女を誤って報道したために発祥したとされる。都市伝説の亜種「二口女」は、『絵本百物語』の同名の妖怪とは関連しない。韓国では「赤いマスクの女」と呼ばれる。
姿かたち
口裂け女の定型は、口元を完全に隠すマスクを着けた若い女で、マスクを外すと口が耳まで裂けている、というものである。マスコミ初出とされる『岐阜日日新聞』1979年1月26日のコラムは、岐阜の子供たちの噂として「ある女優似の美人」と記した。
噂の服装は土地ごとに分かれる。赤いベレー帽・赤い服・赤いハイヒールの組、血の目立たない真っ赤な服、血の目立つ真っ白い服、という対比が語られた。東京都江戸川区では赤い傘、王子では白いコートと白いブーツ、多摩川では薄汚い格好、八王子市と国分寺市では着物にサングラス、岡山市では片手にツゲの櫛を持つ、と伝える。目はキツネ、声はネコに似るともいう。松谷みよ子『現代民話考』第二期 II と常光徹『学校の怪談』は、学校を舞台にしたこうした噂を採集している。
江戸期の怪談集『怪談老の杖』には、江戸近郊に狐が化けた「口裂け女」が現れた話がある。1979年の都市伝説とは別系統の記録であり、マスクの下に耳まで裂けた口を見せる像は、1979年前後の噂のなかで固まった。
性質と弱点
口裂け女は、通行人に「私、綺麗?」と問い、否定すれば包丁や鋏で殺し、肯定しても口を裂く、という害をなす話型で語られる。何を答えても殺されるか大怪我を負わされるのが前提であり、1978年頃に京都で流布したパターンでは「ふつう」と返して迷っている隙に逃げる、と伝える。平泉悦郎「全国の小中学生を恐れさせる「口裂け女」風説の奇々怪々」(『週刊朝日』83巻27号、1979年6月29日)は、この風説を記す。
「ヨーグルト食べる?」に「食べない」と答えると自分が食べられる、肩を叩かれて振り向くと切りつけられる、通行人を食べる、連れ去る、といった行動も子供のあいだで語られた。学校の保健室にいる、学校医が正体である、という噂もある。常光徹『学校の怪談』(講談社KK文庫、1990年)は学校を舞台にした話型と子供の噂を扱う。
べっこう飴は好物で与えて夢中にさせる、関東地方では逆に嫌いなので投げつける、千葉県我孫子市ではべっこう飴5個なら喜び金平糖5個なら逃げ出す、と伝える。ポマードを3回あるいは6回唱える、投げ付ける、手や足の裏に書いて見せると怯むとされるが、唱えると怒らせるという注意もあった。福岡県ではスペースインベーダーが好きで百円玉を拾う隙に逃げる、との噂があった。
「ニンニク」「ハゲ」と唱える、手のひらに「犬」と書いて見せる、2階以上の建物やレコード店・化粧品店に逃げ込む、血液型がO型であれば襲われない、といった対処と例外も伝わった。「きれいですよ」と言い続けると赤面する一方、1978年当時から「同じにしてあげる」と口を裂く通説があり、肯定を続けるのは危険とされる。松谷みよ子『現代民話考』第二期 II(立風書房、1987年)はこうした話を採集し、『週刊女性』23巻25号(1979年7月3日)は流行中の正体を追跡した。
伝承・逸話
真正町の厠の目撃:平泉悦郎「全国の小中学生を恐れさせる「口裂け女」風説の奇々怪々」(『週刊朝日』83巻27号、1979年6月29日)は、1978年12月初め、岐阜県本巣郡真正町で、農家の老婆が母屋から離れたトイレに立った際、口裂け女を見て腰を抜かした、という噂を紹介する。
三姉妹の問い:松谷みよ子『現代民話考』第二期 II(立風書房、1987年)は口裂け女を含む現代の民話・怪談を採集する。その話群では、口裂け女を三姉妹とする型が語られる。出遭った人は「3人の中で誰が綺麗?」と問われ、一人を選ぶと、選ばれなかった二人に殺される。三人とも口が裂けているとする話のほか、両側が裂けた者、片側だけの者、口紅で裂けたように見せる者に分ける話もある。山口県下松市では、長女は整形の失敗、次女は交通事故で口が裂け、裂けていない三女は嫉妬した姉たちに口を裂かれた、と伝える。2001年に採集された話では、日本統治下の朝鮮半島で、雪の夜にマスクをした三人の女が家を訪ね、「誰が一番きれい?」と聞き、一人を選ぶとほかの二人に殺され、マスクを外すと三人とも口が裂けていた、とされる。
学校の保健室:常光徹『学校の怪談』(講談社KK文庫、1990年)は、学校を舞台にした口裂け女の話型と、子供のあいだの噂を扱う。子供が通う学校の保健室に、いつもマスクをした学校医がおり、その医者が口裂け女である、という筋で語られる。別の型では、体育館のステージの地下室に住みついているとされる。
口割れ女:愛媛県と徳島県では、口裂け女の変種が「口割れ女」の名で語られる。山口敏太郎『本当にいる日本の「現代妖怪」図鑑』(笠倉出版社、2007年)は現代妖怪として口裂け女を収録する。愛媛の話では、相手に「美人ですか?」と尋ね、答えなければ包丁で刺し殺す、と伝え、この話を聞いてしまった者のもとへ三日以内に口割れ女が現れる、とする。徳島では赤いセリカに乗って現れ、「私の目はきれい?」と尋ねる。名称は、地元新聞社が口裂け女を誤って「口割れ女」と報じたことから発したといわれる。
狐の口裂け女:江戸時代の怪談集『怪談老の杖』は、江戸近郊に狐が化けた口裂け女が現れた、と記す。1979年の都市伝説とは別系統の記録である。
起源と解釈
定説:中京発祥の都市伝説
口裂け女の起源は、中京地区、とくに岐阜県近辺とする点で諸説がほぼ一致する。マスコミ初出は『岐阜日日新聞』1979年1月26日とされ、平泉悦郎は『週刊朝日』83巻27号(1979年6月29日)で、1978年12月初めから岐阜県に噂があったことを記す。流布は1979年春から夏にかけての都市伝説である。岐阜発祥説では、財力のない家庭が塾通いを諦めさせるために夜の外出を怖がらせた話がルーツとされることが多い。
由来諸説:怨念・扮装・脱走・事故
宝暦4年(1754年)美濃国郡上藩(現・岐阜県郡上市)の郡上一揆ののち、白鳥村の農民の怨念が妖怪談となり口裂け女へ変じたという説、明治時代中期に滋賀県信楽のおつやをモデルとする説がある。ジャーナリスト朝倉喬司の調査では、岐阜の最初期の噂は精神病院からの脱走者として語られ、1970年代の大垣市や多治見市の話が元になったという。岐阜県美濃加茂市では1977年から1978年頃、顔面損傷の入院女性の脱走が保育園児のあいだで口裂け女の話題に変じたとされ、1968年8月18日の飛騨川バス転落事故現場の白骨頭蓋を復顔して亡霊とみる説もある。『週刊女性』23巻25号(1979年7月3日)は正体の追跡を試みている。
少数説:CIAと半島の先行話
少数説には、CIAが噂の広がり方を検証するために流した情報だとするものがある。日本統治下の朝鮮半島ですでに同型の話があったとの説もあり、雪夜の三人の女の話が2001年に採集されている。江戸時代の『怪談老の杖』に狐が化けた口裂け女の話があるが、1979年の都市伝説とは別系統である。
研究史:現代民話としての位置
松谷みよ子『現代民話考』第二期 II(1987年)は現代に語られる民話として採集し、常光徹『学校の怪談』(1990年)は学校を舞台にした話型と子供の噂として扱う。山口敏太郎『本当にいる日本の「現代妖怪」図鑑』(2007年)は現代妖怪として収録する。
史料の変遷
江戸時代の怪談集『怪談老の杖』には、江戸近郊に狐が化けた「口裂け女」が現れたとの話がある。1979年春から夏に全国へ流布した都市伝説とは別系統の記録である。
1978年12月初めに岐阜県で噂が起こり、新聞に初めて載ったのは1979年1月26日の『岐阜日日新聞』とされる。平泉悦郎「全国の小中学生を恐れさせる『口裂け女』風説の奇々怪々」は『週刊朝日』83巻27号(1979年6月29日)に載り、『週刊女性』23巻25号(1979年7月3日)も流行中の正体を追跡した。
松谷みよ子『現代民話考』第二期 II(1987年)は口裂け女を現代に語られる民話・怪談として採集し、常光徹『学校の怪談』(講談社KK文庫、1990年)は学校を舞台にした話型と子供のあいだの噂を記録した。1990年代には整形手術や医療過誤の話題に伴い再び広まり、整形に失敗した女を正体とする語りが残った。山口敏太郎『本当にいる日本の「現代妖怪」図鑑』(2007年)はこれを現代妖怪として収録している。
ゆかりの地
本巣(岐阜県): 平泉悦郎「全国の小中学生を恐れさせる「口裂け女」風説の奇々怪々」(『週刊朝日』83巻27号、1979年6月29日)は、1978年12月初めの噂の地名として岐阜県本巣郡真正町を記す。口裂け女を祀る社寺や碑は伝わらず、訪ね得るのは真正町の町村域である。
美濃加茂市(岐阜県): 岐阜県美濃加茂市では、1977年~78年頃、事故で搬送された女性が病院を脱走した話が口裂け女の話題に変化し、保育園児を中心に広がったとされる。病院の固有名は伝わらない。
郡上(岐阜県): 美濃国郡上藩(現・岐阜県郡上市)、なかでも旧白鳥村(現・郡上市)は、由来をこの地に求める説で名が挙がる。祀る社寺や碑は無い。
姫路市(兵庫県): 1979年6月21日、姫路市の25歳の女がいたずらで口裂け女の格好をし、包丁を持ってうろつき、銃刀法違反容疑で逮捕された。現場の町名は伝わらない。
郡山市(福島県)・平塚市(神奈川県): 福島県郡山市と神奈川県平塚市ではパトカーが出動し、北海道釧路市と埼玉県新座市では集団下校が行われた。出動先や下校路の固有名は残らない。
現代の受容
流行下のパロディ:1979年7月3日の『週刊女性』23巻25号は、流布中の風説の正体を追跡した。同年、銀座のホステスのあいだで、口を手で覆って客に「私、きれい?」と聞くサービスが流行し、客は「べっこう飴」や「ポマード」と答えるものとされた。「口裂け女」をもじり、おしゃべりな女を指す「口先女」という語も生まれた。
ゲームと図鑑:噂のべっこう飴は、当時のパソコンゲーム『平安京エイリアン』で敵を足止めするアイテムとして取り入れられた。松谷みよ子『現代民話考』第二期 II(1987年)は現代に語られる民話として採集し、常光徹『学校の怪談』(講談社KK文庫、1990年)は学校を舞台にした子供の噂として扱う。山口敏太郎『本当にいる日本の「現代妖怪」図鑑』(2007年)は現代妖怪として図鑑に収録する。1990年代には整形手術の失敗を正体とする語りが再び広まり、2004年には韓国でも流行した。図鑑に載るのは都市伝説の話型を類型化した像であり、土地の語りに対応する民俗学上の定型像ではない。
出典・参考文献References
- 『岐阜日日新聞』(岐阜日日新聞社) 19791979年1月26日のコラム。岐阜の子供たちの噂として女優似の美人と記し、マスコミ初出とされる。
- 『全国の小中学生を恐れさせる「口裂け女」風説の奇々怪々』 平泉悦郎(朝日新聞出版) 1979『週刊朝日』83巻27号(1979年6月29日)。1978年12月初め、岐阜県本巣郡真正町で農家の老婆が口裂け女を見たという噂を紹介する。
- 『怪談老の杖』江戸近郊に狐が化けた口裂け女が現れた話を載せる。1979年の都市伝説とは別系統の記録。
- 『現代民話考 第二期 II』 松谷みよ子(立風書房) 1987第二期 II。口裂け女を含む、現代に語られる民話・怪談を採集する。
- 『学校の怪談』 常光徹(講談社) 1990講談社KK文庫。学校を舞台にした口裂け女の話型と、子供のあいだの噂を扱う。
- 『本当にいる日本の「現代妖怪」図鑑』 山口敏太郎(笠倉出版社) 2007現代妖怪として口裂け女を収録する。
- 『「口裂け女」の正体を徹底追跡!』(河出書房) 1979『週刊女性』23巻25号(1979年7月3日)。流行中の口裂け女の正体を追跡した記事。
ランキング順位Rankings
ゆかりの地Places
- 本巣(岐阜県)1978年12月、旧真正町で農家の老婆が口裂け女を見たという噂が『週刊朝日』に紹介された。
- 美濃加茂(岐阜県)1977〜78年頃、事故で顔面を損傷した女性の病院脱走が口裂け女の噂に変化したとされる。
- 郡上(岐阜県)宝暦4年の郡上一揆のあと、旧白鳥村の怨念が口裂け女になったとする説がある。
- 姫路(兵庫県)1979年6月21日、25歳の女が口裂け女の格好をし包丁を持ってうろつき、銃刀法違反容疑で逮捕された。
- 郡山(福島県)1979年の流行時、パトカーが出動する騒ぎになった土地。
- 平塚(神奈川県)1979年の流行時、パトカーが出動する騒ぎになった土地。
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よくある質問FAQ
口裂け女は実在するのですか?
1979年に警察が調査しましたが、実在の人物は確認されていません。都市伝説として扱われています。
口裂け女の弱点は何ですか?
一部の説では「ポマード」や「べっこう飴」を渡すと逃げるとされますが、これは後年の創作を含みます。
口裂け女の起源は何ですか?
江戸時代の怪談、戦後の事件、整形手術の失敗など諸説ありますが、確証はありません。
口裂け女は実在しますか?
1979年に全国へ広がった都市伝説である。同年6月、姫路市でいたずらに口裂け女の格好をした女が銃刀法違反容疑で逮捕された例がある。同年8月には噂が急速に沈静化した。
口裂け女はいつ広まりましたか?
1978年12月初めに岐阜県で噂が起こり、1979年1月26日の岐阜日日新聞がマスコミ初出とされる。同年6月ごろまでにほぼ全国へ広がり、8月、夏休みで子供の口コミが途絶えて急速に沈静化した。2004年には韓国でも流行した。
「私、きれい?」と聞かれたらどうすればいい?
何を答えても殺されるか大怪我を負わされる、というのが当時の前提で、答えずにポマードやべっこう飴などの対処を使うとされた。1978年頃の京都では「ふつう」と曖昧に答えて逃げる型もあった。
最終更新: · 編集: 百鬼編集室

