山姥
山姥(やまうば)とは、山中に住むとされる日本の妖怪で、人を食らうとも、富を与えるとも伝わる。

- 分類
- 山の怪
- 分布
- 全国の山地
- 出没
- 奥山・山道
- 弱点・対処
- 御札
- 主な初期記録
- 『今昔物語集』
解説Overview
山姥(やまうば、やまんば)は、奥山に棲む老女の怪である。山中で迷った旅人に宿と食事を与え、夜になって食い殺すと伝えられる一方、『糠福米福』や『姥皮』では福を授ける。高知県では家に憑くと急速に富み、守護神として祀る家もある。
呼び名は土地ごとに分かれ、山母・山姫・山女郎のほか、宮崎県えびの市のヤマヒメ、静岡のヤマババ、八丈島のテッジ、香川の川女郎などがある。姿も一定せず、洗い髪で歌う女、木の皮をまとった柔和な女、乳をたすきに掛ける者などと語られる。襲われるのは牛方・馬方・桶屋・小間物屋といった山道の旅職人で、『牛方山姥』や『天道さんの金の鎖』では人を食う化け物として現れる。
足柄山の金太郎の母としても知られ、『今昔物語集』に、源頼光が足柄山で老婆と童形の若者を見出した話がある。謡曲『山姥』(世阿弥)は、善光寺詣での遊女が山中で山姥に会い、境涯を聞く。『遠野物語』は山隠れした女が山姥になった話を伝える。
名称と語源
山姥は「やまうば」「やまんば」と読まれ、奥山に棲む老女の怪を指す名である。山母、山姫、山女郎とも呼ばれ、宮崎県西諸県郡真幸町(現えびの市)と岡山県の深山ではヤマヒメ、静岡県磐田郡ではヤマババの呼び名が残る。村上健司『日本妖怪大事典』(2005年)は、これらの異名を山姥の項に記す。
東海道や四国、九州南部の山地では、山姥とともに山爺がいる、あるいは山童と一緒にいると伝え、山姥を山母、山爺を山父と呼ぶこともある。香川県では川にいる山姥を川女郎(かわじょろう)といい、八丈島ではテッジ(テッチとも)と呼ぶ。静岡県周智郡春野町(現・浜松市)熊切にはホッチキスバアという山姥が伝わり、長野県東筑摩郡のウバは、その名から山姥の一種とも考えられている。
『古事記』(太安万侶、712年)は、イザナミの葬地を出雲と伯耆の国境の比婆山と記す。この比婆山を山姥の語源とする指摘がある。謡曲『安達原』の黒塚、諏訪千本松原の舌長姥も山姥の一種とされる。
出典: 〔1〕
姿かたち
鳥山石燕は1779年の『今昔画図続百鬼』に「山姥」を収め、山中に住まう老女の姿で描いた。口碑では、山中で道に迷った旅人の前に、まず優しい婦人の姿で現れるとも伝える。
見える年齢と装いは土地によって分かれる。宮崎県西諸県郡真幸町(現えびの市)のヤマヒメは洗い髪の姿で現れ、岡山県の深山に棲むヤマヒメは20歳ほどの女性で、眉目秀麗、珍しい色の小袖に黒髪であり、猟師が鉄砲で撃った弾を手でつかんで微笑んだという。静岡県磐田郡のある家に休んだヤマババは、木の皮を綴ったものを身にまとった柔和な女で、特に変わったところはなかったと伝える。
八丈島のテッジ(テッチとも)は体に瘡が出、乳をたすきのように両肩に掛けるとされる。長野県東筑摩郡のウバは髪の長い一つ目として伝わる。『今昔物語集』は976年、源頼光が上総国から上京の途中、足柄山で向かいの山の険しい場所に赤い雲気を認め、茅屋の老婆を見出したと記す。
性質と弱点
関敬吾『日本昔話大成』(1978年)の『牛方山姥』『食わず女房』『天道さんの金の鎖』では、牛に魚を積んだ男が峠で山姥に遭遇し追いかけられるなど、人を取って食う化け物として語られる。襲われるのは牛方や馬方、桶屋、小間物屋といった旅職人・行商人であるとされる。村上健司『日本妖怪大事典』(2005年)はこれらの話型を山姥の項に収める。
『日本昔話大成』の『糠福米福』(米福粟福)では、継母にいじめられる姉には宝を、意地の悪い妹には不幸をもたらし、『姥皮』では人間に福を授ける存在として現れる。高知県では山姥が家に取り憑くとその家が急速に富むと伝え、守護神として祀る家もある。
八丈島のテッジ(テッチとも)は神隠をしたり一晩中あらぬところを歩かせたりするが、親しくなると秣を運び、行方不明の子供を三日養った例もある。香川県では川にいる山姥を川女郎といい、大水で堤が切れそうになると「家が流れるわ」と泣き声のような声をあげるという。静岡県周智郡春野町(現・浜松市)熊切のホッチキスバアは夕方に山道に現れ、山から祭りや祝い事の音が聞こえる怪異はその仕業とされた。
『日本昔話大成』の『三枚の御札』では、追いかけられた小僧が投げた御札が川や山などの障害を出し、逃れる。『天道さんの金の鎖』では、追って鎖を上った山姥が蕎麦畑に落ちて死ぬ。北九州地方では暮れの十三日または二十日を山姥の洗濯日とし、この日は水を使わず洗濯をしない風習が残る。
出典: 〔6〕
伝承・逸話
糠福米福(ぬかふくこめふく): 関敬吾『日本昔話大成』(1978年)が分類収録する話型で、米福粟福とも呼ばれる。木の実拾いに出かけた姉妹が山姥に出会う。継母にいじめられる心優しい姉には宝を与え、意地の悪い本子である妹には不幸をもたらすと伝える。
姥皮: 同書の『姥皮』では、山姥は人間に福を授ける存在として登場する。高知県では、山姥が家に取り憑くとその家が急速に富むという伝承があり、山姥を守護神として祀る家もある。
三枚の御札: 関敬吾『日本昔話大成』に収まる話型である。小僧が山姥に追いかけられ、山姥に向かって投げた御札が川や山などの障害物を出すと伝える。
牛方山姥: 同書のこの話型では、牛に魚を積んで運ぶ男が峠で山姥に遭遇し、追いかけられる。山姥は殺され、その死体が薬や金などの貴重なものとなって牛方を金持ちにしたと伝える。
今昔物語集の足柄山: 『今昔物語集』によれば、976年、源頼光が上総国から上京の途中、足柄山にさしかかったところで、向かいの山の険しい場所に赤い雲気を見つけ、人傑が隠居しているものとみて渡辺綱を遣わした。赤い雲気のたちこめていた場所には、老婆と20歳ほどの童形の若者が茅屋に住んでおり、老婆はある日、夢の中に現れた赤い竜と通じ、産まれた子がこの公時なのだと説いた。頼光は彼を常人ではないと感じ、坂田金時と名付けて家臣としたという。金時は源頼光の四天王の一人となった人物で、足柄山の金太郎として知られる。村上健司『日本妖怪大事典』(2005年)は金太郎の母としての山姥を項に整理している。
起源と解釈
山岳信仰起源: 山姥の原型は、山間を生活の場とする人びととする説と、山の神に仕える巫女が妖怪化したものとする説がある。北九州地方では暮れの13日または20日を「山姥の洗濯日」とし、雨が降るため洗濯をしない習いが残り、雨を司る山神の巫女の禊の日の名残りと解される。柳田國男『遠野物語』(1910年)は、狂人、山の神に娶られる者、山人に攫われる者など、山隠れした女が山姥になった話を伝える。
産霊神の零落: 長野県飯田市上村程野では、猟に出た山神の長兄オホヤマツミノミコトがお産に苦しむ山姥を助け、山姥は7万8000の子を産み、彼に猟運を授けたと伝える。関敬吾『日本昔話大成』(1978年)の『牛方山姥』では殺された山姥の死体が薬や金となり、『古事記』(太安万侶、712年)のオホゲツヒメやイザナミが死体・排泄物から作物や神を生じさせた記述と対応させ、産霊神的特質の残存とみる。『日本昔話大成』の『三枚の御札』の追走をイザナギの黄泉帰りに重ね、地母神の劣化を山姥の本源とする説もある。
少数説: 飢餓で口減らしのため山に捨てられた老婆の伝承が姿を変えたものとする説、姥捨て伝説の副産物とする説、西欧の魔女に直接当たるとする説もある。『遠野物語』や『日本昔話大成』が示す山隠れ・産霊の話型とは根拠を異にする。
史料の変遷
文献に残る早い記録として『今昔物語集』がある。同書は、976年、源頼光が上総国から上京の途中、足柄山で老婆と童形の若者を見出したと記す。
曲舞『山姥』は現存せず、世阿弥作の謡曲『山姥』が題材を残した。善光寺詣での遊女「百ま山姥」が山中で女に宿を借り、正体を現した山姥が境涯を語り山巡りの舞を見せて消える、と伝える。
足柄山の金太郎伝説を元にした金平浄瑠璃と、謡曲と金太郎伝説を合わせた義太夫『嫗山姥(こもちやまんば)』、長唄『四季の山姥』が舞台の記録として残る。1779年、鳥山石燕『今昔画図続百鬼』が「山姥」の図を収めた。
1910年、柳田國男『遠野物語』が山姥の話を民俗誌として活字にした。1978年、関敬吾『日本昔話大成』は山姥の話型を分類収録し、2005年の村上健司『日本妖怪大事典』が「山姥」項で異名・分布・昔話型を整理した。国際日本文化研究センターの「怪異・妖怪伝承データベース」は各地の伝承事例を収める。
ゆかりの地
信州佐久: 川久保地区では、山姥が城山の岩と一の淵の流岩山をまたいで大便をした際のかかとの窪みが今もあると伝える。畑中付近の1丈(約3メートル)の巨岩は山姥の大便だという。
熊切(浜松市): 静岡県周智郡春野町(現・浜松市)熊切には「ホッチキスバア」という山姥が伝わり、夕方に山道に現れるとされた。
えびの市・八丈島: 宮崎県西諸県郡真幸町(現えびの市)は「ヤマヒメ」の伝承地である。八丈島では「テッジ」(テッチとも)が伝えられる。
程野・足柄山: 長野県飯田市上村程野は、猟に出た山神の兄弟が山姥に出会ったと伝える土地である。足柄山は金太郎の母とされる山姥の伝承地である。村上健司『日本妖怪大事典』(2005年)は金太郎の母としてこの山の伝承を整理する。
現代の受容
事典とデータベース:村上健司『日本妖怪大事典』(2005年)は「山姥」項を立て、異名・分布・金太郎の母・昔話型を整理する。国際日本文化研究センターの『怪異・妖怪伝承データベース』は山姥・山姫・山母などの各地伝承事例を収録する。文学・漫画・アニメ・ゲーム・広告・観光・商品での扱いを作品名と年で記す記述は、これらの出典には示されていない。
芸能:金平浄瑠璃は足柄山の金太郎伝説を元にし、義太夫『嫗山姥(こもちやまんば)』は金太郎伝説と世阿弥作の謡曲『山姥』を元にする。義太夫『道行山廻旭の粧』および長唄『四季の山姥』も山姥を題材とする。
像:関敬吾『日本昔話大成』(1978年)が分類収録するのは、人を取って食う化け物と、人間に福を授ける存在という両義の話型である。事典が「金太郎の母」として束ね、芸能が役柄として固定する像と、データベースが拾う土地ごとの呼称事例とは、層を異にする。
出典・参考文献References
- 『古事記』 太安万侶 712イザナミの葬地を出雲と伯耆の国境の比婆山と記す。山姥の語源をこの山に求める指摘の根拠であり、オオゲツヒメの死体化生も産霊的特質の比較に引かれる。
- 『今昔物語集』976年、源頼光が上総国から上京の途中、足柄山で老婆と童形の若者を見出し、老婆は夢の赤い竜と通じてその子(公時)を産んだと語る。
- 『謡曲山姥』 世阿弥善光寺詣での遊女「百ま山姥」が山中で女に宿を借り、正体を現した山姥が境涯を語り山巡りの舞を見せて消える。
- 『今昔画図続百鬼』 鳥山石燕 1779「山姥」図。山中の老女として描く。
- 『遠野物語』 柳田國男(聚精堂) 1910狂人、山の神に娶られる者、山人に攫われる者など、山隠れした女が山姥になった話を伝える。
- 『日本昔話大成』 関敬吾(角川書店) 1978『牛方山姥』『三枚の御札』『天道さんの金の鎖』『糠福米福』『姥皮』『食わず女房』など山姥の話型を分類収録する。
ランキング順位Rankings
ゆかりの地Places
- えびの市(宮崎県)旧真幸町。洗い髪で美声に歌うヤマヒメの伝承地。
- 熊切(静岡県浜松市)ホッチキスバアが夕方の山道に現れ、山から祭りや祝いの音が聞こえる怪異の主とされた。
- 八丈島テッジ(テッチ)と呼ばれ、神隠しや秣運び、乳をたすきに掛ける姿で語られる。
- 佐久(長野県)川久保の城山と一の淵の流岩山をまたいだかかとの窪み、畑中の巨岩を山姥の大便とする。
- 程野(長野県飯田市)お産に苦しむ山姥をオオヤマツミノミコトが助け、7万8000の子を産み猟運を授けたという。
- 足柄山(神奈川県)金太郎(坂田金時)の母が住んだとされる。『今昔物語集』で源頼光が老婆と童形の若者を見出した地。
特集Collections
カードCards
画風ちがいのカード。保存してシェアできる。
よくある質問FAQ
山姥はどんな妖怪ですか?
山姥は、山中に住むとされる老女の姿をした妖怪です。人を食らう恐ろしい存在として語られる一方、宝物を与える存在としても伝えられています。
山姥はどこに現れますか?
全国の山に現れるとされますが、特に東北地方や中部地方に伝承が多く残っています。『遠野物語』にも岩手県の山姥の話が収められています。
山姥と山の神の関係は?
柳田國男は、山姥は山の神の信仰と結びついた存在であると論じました。山姥は山の神の化身や、神に仕える存在として考えられることがあります。
山姥とはどんな存在ですか
奥山に棲む老女の怪です。迷った旅人に宿を貸して食い殺す話がある一方、『糠福米福』や『姥皮』では福を授け、高知県では家に憑くと富むとも伝えます。
金太郎の母は山姥ですか
足柄山の金太郎(坂田金時)の母として知られています。『今昔物語集』では、源頼光が足柄山で老婆と童形の若者を見出し、老婆は夢に現れた赤い竜と通じてその子を産んだと語ります。
山姥の別名は何ですか
山母・山姫・山女郎とも呼ばれます。土地によってはヤマヒメ(宮崎・岡山)、ヤマババ(静岡)、テッジ(八丈島)、ホッチキスバア(浜松市熊切)、川女郎(香川)などの名があります。
最終更新: · 編集: 百鬼編集室

