人魚

にんぎょningyo

人魚(にんぎょ)とは、日本各地の海や川に伝わる、上半身が人、下半身が魚の姿をした妖怪。人を襲うとも、長寿や不老をもたらすともされる。

イメージ画(当サイト制作)
分類
海の怪
分布
北陸・みちのく・津軽・越中
出没
海・水域
弱点・対処
似顔絵で除災
主な初期記録
宝治元年の大魚例

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解説Overview

人魚(にんぎょ)は、女性の頭と上半身、魚の尾を持つ水生の伝承上の存在で、ヨーロッパ、アジア、アフリカを含む各地の民間伝承に現れる。民間伝承の外に存在する証拠はない。

日本の像は中国の影響に加え、近世以降はヨーロッパの像も重なる。宝治元年には魚面で死人のようで手足のある「大魚」が人魚に数えられ、江戸期は人面魚と腕のある半人半魚が並んだ。男の人魚も図解され、弘前藩の「御画 男人魚」は長寿を願って母君に見せ、「阿蘭陀渡り人魚の図」は紅毛・猿の手・水かきとし、食せば百歳、見れば無病延命とした。

鎌倉期にはみちのくへの漂着が戦乱の前触れと記され、江戸期は目撃が僥倖となり、越中の海雷のように似顔絵で除災・長寿を得る予言獣ともされた。ジュゴン説は沖縄以北の本土伝承を説明しきれず、北陸に漂着するリュウグウノツカイを日本の人魚の正体とする考察が内田恵太郎(1960、62年)以降ある。

名称と語源

日本語では「人魚」と呼び、『日本妖怪大事典』もこの見出しで項を立てる。男体を示す表記は江戸期からあり、弘前藩で写された図は「御画 男人魚(おんが おとこにんぎょ)」と題する。男性相当物はマーマンとも呼ばれる。瓦版『阿蘭陀渡り人魚の図』も「人魚」を標題に用いる。ペシェ・ムリェール(婦人女)は、江戸時代の日本ではへいしむれるとして知られた。類称に予言獣の神社姫(姫魚)・海出人があり、越中では海雷とも呼ばれる。

英語 mermaid は mere(海)と maid(乙女)の合成で、中英語までにしか遡れない。OED は mer-wife の十九世紀用例を載せる。古英語 mermin(męremęnen)は mere- と -męnen(女奴隷)からなる。同根の中高ドイツ語 merwîp は『ニーベルンゲンの歌』第25歌章に見え、邦訳では水の乙女とされる。古ノルド語 marmennill は必ずしも女性を想定せず、『王の鏡』(1250年頃)はマルギュグルを雌、ハーフストラムブルを雄とする。オランダ語 meermin は1660年の『ヨンストン図譜』に見える。アイルランドのメロウについて、ボブ・カランは英国系マーメイドと同一視するのは誤りで、ケルト系はアザラシ人(セルキー)の要素が魚人より強いと述べる。

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姿かたち

瓦版『阿蘭陀渡り人魚の図』の絵は老爺の容貌で、文章においては髪は紅毛、手は猿のようで水かきがあり、形は蛇のごとしとする。江戸時代の描写には、頭部付近に鶏冠(とさか)、あるいは赤い長髪を置く例もある。

水域に棲み人と魚の特徴を併せ持つ点は共通するが、土地と時代によって形状は大きく異なる。人魚に数えられながら、魚の面をして死人のようで手足のある「大魚」が宝治元年の例にみつかる。江戸時代の図像では、人間の頭部のみが乗った人面魚タイプと、半人半魚で腕をもつ通常の人魚種とが描かれた。

日本の人魚のイメージは中国の影響もあり、近世以降はヨーロッパの人魚のイメージも重ね合わせた。ヨーロッパの人魚は上半身がヒトで下半身が魚類のことが多く、金髪や紅毛の長髪に櫛や鏡を持物とする。1660年の『ヨンストン図譜』はオランダ語 meermin(人魚)の図を載せ、1836年のハンス・クリスチャン・アンデルセン『人魚姫』以後、若い女性に魚尾を添える型が文学と美術で広まった。

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性質と弱点

人魚は、洪水、嵐、難破船、溺死といった危険と結びつけて語られることがある。日本では古来より凶兆または瑞兆とされ、鎌倉時代のいくつかの戦乱はみちのくへの漂着を前触れとする文献に記録されている。江戸時代に入ると目撃は僥倖とされるようになり、予言獣の一種として豊作や疫病を告げたとされる。『ニーベルンゲンの歌』第25歌章では、ドナウ川の merwîp(邦訳では水の乙女)がハゲネに不吉を予告する。スカンジナビアの近代伝承でも、水上に現れただけで嵐の到来を告げるという。ノルウェーではマルメーレを捕えて託宣を求める一方、24時間以上置かずに海へ返す戒律があり、危害を加えれば嵐で仕返しを受けると伝える。スウェーデンの漁師は、見ても仲間に話さず火打石と鋼器で火花を立てて難を回避した。

日本では似顔絵を見せて除災する方法が伝えられている。越中の人魚(海雷)の例では、似顔絵を見せれば災難を回避でき、長寿も得られるとされた。瓦版『阿蘭陀渡り人魚の図』は、食せば長寿は百歳を越し、見ただけでも無病延命の効があるとする。類種の予言獣に神社姫(姫魚)や海出人がいる。『日本妖怪大事典』は「人魚」項で日本の伝承を整理する。

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伝承・逸話

白鳥処女(衣奪い):『ニーベルンゲンの歌』第25歌章に、予言の力をもつ二人の人魚(中高ドイツ語 merwîp。邦訳では水の乙女)が登場する。ジーゲリントとその叔母ハデブルクがドナウ川で水浴びしていたところ、ハゲネが衣服を持ち去る。水浴する異界の女の衣を奪う点で白鳥処女説話の系統に属するとされ、グリムは、彼女らが水面から浮上するように描かれていることを根拠に、白鳥処女そのものだと論じた。二人はハゲネに不吉を予告する。

異類婚姻:フランスの伝承では、水の精メリュジーヌが異類婚姻の主人公となる。上半身は人間の女、下半身は蛇、一説には魚である。貴族レーモンドが見初めて娶ると、メリュジーヌは土曜日に自室へ籠もるあいだ姿を見ぬよう約させ、夫に策を授けて富をもたらす。浮気の噂を聞いたレーモンドが約束を破ると、入浴中の下半身は魚に変わっており、メリュジーヌは去る。アイルランドのメロウも人間の男と婚姻し子をなすことがあり、その子は足に鱗、指に小さな水かきがあるとされる。ハンス・クリスチャン・アンデルセンの創作童話『人魚姫』(1836年)では、人魚に不死の魂がないため、そのままでは人間との恋は成就しないとする。この着想はアンデルセンの発案ではなく、パラケルススのウンディーネやフリードリヒ・フーケの『ウンディーネ』が先行する。

海の鬼女:『オーラヴ聖王のサガ』の異本によれば、ノルウェーのオーラヴ聖王が対したマルギュグルは、航行者を眠らせ溺れさせ、高音の叫びで人を狂わせた。頭は馬のごとく耳は立ち、前半身に手があり下半身は蛇のようで、灰色の毛におおわれていたとされる。古ノルド語の啓蒙書『王の鏡』(1250年頃)はマルギュグルを雌種、対をなすハーフストラムブルを雄種とし、後者の下半身には目撃がないとする。

オリシポの目撃:大プリニウス『博物誌』(紀元77年刊)によれば、ティベリウス帝の時代、ローマ帝国ルシタニア州オリシポでトリトンが洞窟で法螺貝を吹いていたとされ、同地でネーレーイスも目撃されている。ネーレーイスが死にかけるときの嘆きの歌を浜の住民が聞いたことがあると補い、真正のネーレーイスは全体が鱗に覆われていると主張する。

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起源と解釈

セイレーンと実在視: 歌声で人を惹きつける西洋の人魚像は、ギリシア神話のセイレーンに影響された可能性がある。ホメロス作『オデュッセイア』に容姿の記述はなく、セイレーンはもとは鳥に近い姿で、キリスト教の時代に魚尾となった。実在視の早い記録は大プリニウス『博物誌』(紀元77年)で、ルシタニア州オリシポのトリトンとネーレーイスを伝え、後者は全体が鱗だと主張する。人魚が民間伝承の外に存在する証拠はない。

日本の像: 村上健司『日本妖怪大事典』(2005年)は「人魚」項で伝承と図像を整理する。日本の人魚イメージは中国の影響があり、近世以降はヨーロッパの像も重なった。女性化の背景にはヨーロッパの影響と、一説には仏教の竜王の娘である竜女伝説がある。

動物学的な同定: ジュゴンの見間違いとする説がある。16世紀以降、ヨーロッパ人は植民地のジュゴンやマナティーを実在の人魚として地誌に記したが、ジュゴンは熱帯種で生息北限は沖縄(旧琉球王国)にあり、全伝承をこれに還元できない。高島春雄は、日本人が本物のジュゴンを見たのは明治以降なのに古い目撃がある、と指摘する。ヨンストン『ヨンストン図譜』(1660年)はオランダ語 meermin を図解する。日本の人魚については、北陸地方に漂着するリュウグウノツカイを正体とする考察が九州大学名誉教授の内田恵太郎(1960年、1962年)を皮切りにあり有力視される。少数説に、ステラーカイギュウやアザラシ類・イルカ類、また『王の鏡』(1250年頃)のハーフストラムブルをズキンアザラシや蜃気楼とする見解がある。

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史料の変遷

西洋では紀元77年刊の大プリニウス『博物誌』が、ルシタニア州オリシポでのトリトンとネーレーイスの目撃を実在の記事として記した。1250年頃の『王の鏡』はマルギュグルを雌、ハーフストラムブルを雄として対に記し、後者の下半身には目撃がないとする。日本では、研究上人魚に数えられる宝治元年の「大魚」例があるとされ、1660年の『ヨンストン図譜』にはオランダ語 meermin の図がある。江戸時代には瓦版『阿蘭陀渡り人魚の図』が流布した。

1753年、ポントピダン司教がノルウェーの人魚を著述し、記述は1833年のアンドレアス・ファイエの伝説集に転載された。ハンス・クリスチャン・アンデルセンの創作童話『人魚姫』(1836年)以後、文学の主題としても扱われる。魚類学者の高島春雄は、日本人が本物のジュゴンを見たのは明治以降だが古い目撃証言もあると指摘し、1960年と62年に内田恵太郎が記録を再検討した。村上健司『日本妖怪大事典』(2005年)が項を立て、国際日本文化研究センターの「怪異・妖怪伝承データベース」が伝承カードを収録する。

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ゆかりの地

津軽・弘前:津軽藩にかかわる男人魚の図が残り、弘前藩の若殿がこれを写したと伝えられる。母君に見せて長寿を願ったと記され、図自体がこの地の遺物として残る。訪ね得る社寺や碑、祭りの固有名は出てこない。

越中:越中は海雷と呼ばれる人魚の出現が伝えられる土地である。浦名・社名・祭礼の所在は記されず、訪ね得る施設は確定できない。

みちのく:みちのくは人魚の漂着が文献に記された土地として名が出る。浦や浜の固有名は見えない。

沖縄:沖縄(旧琉球王国)の海域は、ジュゴン生息の北限として挙げられる。人魚を祀る社寺や祭りの名は記されない。

現代の受容

近世以降、人魚は芸術や文学の人気のある主題となった。ハンス・クリスチャン・アンデルセンの文学的童話『人魚姫』(デンマーク語 Den lille Havfrue、1836年)がその例であり、以後、歌劇、絵画、書籍、コミック、アニメ、実写映画で描かれてきた。デンマークのバラッド『アウネーテと人魚』は十八世紀末期の創作物で、十九世紀のエーレンスレイヤーやアンデルセンにも翻案されている。

流通するキャラクター像は、若い女性の半人半魚として描かれることが多い。ウォーターハウスの油彩にみる髪を梳く人魚は誘惑の女性を表すと考察され、ラファエル前派の作品を経て近年のアニメ人魚にまで影響しているとされる。これに対し、村上健司『日本妖怪大事典』(2005年)の「人魚」項は日本の伝承と図像を整理し、国際日本文化研究センター『怪異・妖怪伝承データベース』も伝承カードを収録する。日本の人魚像は中国の影響もあり、近世以降ヨーロッパの像も重ねられ、時代により外見が異なる。図鑑が扱う記録は、一八三六年の『人魚姫』以後に広まった像とは範囲を異にする。

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出典・参考文献References

  1. 『博物誌』 大プリニウス 77
    ルシタニア州オリシポでトリトンとネーレーイスの目撃を記し、ネーレーイスは全体が鱗であると主張する。
  2. 『ニーベルンゲンの歌』
    第25歌章。ドナウ川の merwîp(水の乙女)がハゲネに不吉を予告する。
  3. 『王の鏡』 1250
    マルギュグルを雌、ハーフストラムブルを雄とし、後者の下半身には目撃がないとする。
  4. 『ヨンストン図譜』 ヨンストン 1660
    オランダ語 meermin(人魚)の図を載せる。へいしむれる(婦人魚)の薬効の項でも参照される。
  5. 『阿蘭陀渡り人魚の図』
    瓦版。絵は老爺の容貌。紅毛、猿の手、水かき、蛇のごとき形とし、食せば百歳を越し、見ただけでも無病延命とする。
  6. 『人魚姫』 ハンス・クリスチャン・アンデルセン 1836
    人魚には不死の魂がなく、そのままでは人間との恋は成就しないとする創作童話。

ランキング順位Rankings

ゆかりの地Places

  • 弘前(青森県)弘前藩の若殿が「御画 男人魚」を写し、母君に見せて長寿を願った。
  • 越中(富山県)人魚(海雷)の予言獣伝承。似顔絵で災難回避と長寿を得たとする。
  • 沖縄(沖縄県)ジュゴン生息の北限。ジュゴンを人魚の正体とする説の地理的前提。

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よくある質問FAQ

人魚は実在するのですか?

人魚は伝承上の存在であり、実在は確認されていません。ただし、ジュゴンやアザラシなどの海獣が人魚伝説の起源になったという説があります。

人魚の肉を食べると本当に不老長寿になるのですか?

『古今著聞集』などの説話に、人魚の肉を食べて長寿を得たという話が記されていますが、科学的な根拠はありません。

人魚はどの地域に伝承がありますか?

日本各地に伝承があります。特に若狭湾沿岸、北陸地方、瀬戸内海などで人魚の目撃談や伝説が多く残っています。

人魚を食べると長寿になるのですか?

「阿蘭陀渡り人魚の図」は、食せば長寿は百歳を越し、見ただけでも無病延命の効があるとする。伝承上の効能であり、実在する人魚の肉の根拠はない。

日本の人魚はどこに現れますか?

鎌倉期のみちのくへの漂着、津軽・弘前の男人魚図、越中の海雷、北陸の漂着魚との対応が残る。八尾比丘尼伝説は日本本土の各地に伝わる。

西洋の人魚と同じ姿ですか?

水域に人と魚の特徴を併せ持つ点は近い。西洋は上半身がヒトで下半身が魚、櫛と鏡が定番である。日本は時代により異なり、江戸期は人面魚と腕のある半人半魚が並ぶ。

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最終更新: · 編集: 百鬼編集室