送り犬
夜道を歩く人の後ろに付き従い、転ぶと噛み殺すが「休もう」と声をかけると一時的に姿を消すとされる犬の妖怪。

- 分類
- 動物の怪異
- 分布
- 東北地方を中心に、中部・四国にも類話がある。
解説Overview
送り犬(おくりいぬ)は、夜の山道や峠で人の後ろに付き従う犬の怪異である。歩いている者が転ぶと噛み殺されるが、転ばずに「休もう」と唱えると、送り犬は一時的に姿を消すという。
由来は近世の怪談集や明治期の民俗採集に見える。江戸時代の随筆『夜窓鬼談』には、夜道で犬が後ろを付けてくる話があり、転ぶと害されるが「休め」と口にすると退くという。また、江戸後期の怪異譚を集めた『絵本百物語』にも、山道で人を送る犬の挿話が確認できる。柳田國男の『遠野物語』にも、夜道を歩く際に犬が後ろから付いてくるという話が記され、東北地方の伝承として知られる。
呼称は地域により異なる。東北では「送り犬」のほか「おくり犬」「犬神」と混同されることもある。中部地方では「後追い犬」、四国では「送り狼」という言い方も残る。送り狼は狼が後ろから付く話で、犬と狼が入れ替わる地域差がある。
姿は一般的に普通の犬とされるが、目が光る、体が大きい、尻尾が長いなど、多少の異形が語られることもある。暗い夜道で後ろを振り返ると送り犬と目が合い、襲われるという警告も多い。
性質は「転ばせる」ことに集約される。転んだ瞬間に噛み付く、あるいは転んだ者を食うと伝えられる。逆に、転ばずに「休もう」と言うと、送り犬は主人の声と誤認して去る、または一時的に消えるとされる。これは、犬が「休め」という言葉を主人の命令と解釈するためと説明されることが多い。
時代による変化として、江戸期は実在の犬や狼による被害と結びつき、明治以降は民俗学の文脈で「山の怪異」として整理された。現代では、都市伝説や怪談の題材として再話され、転ばないための護符として「休もう」を唱える行為が紹介されることがある。
現代での扱いは、山道や夜道の安全を説く教訓話として機能する一方、ネット上では「送り犬に遭ったらどうするか」という対処法が共有される。犬の妖怪として、河童や天狗ほど有名ではないが、東北や中部の伝承として資料に残る。
伝承・史料Lore
夜窓鬼談の送り犬: 江戸時代の随筆『夜窓鬼談』に、夜道で犬が後ろを付けてくる話がある。転ぶと害されるが「休め」と唱えると退くという。
遠野物語の犬: 柳田國男『遠野物語』には、夜道を歩く際に犬が後ろから付いてくるという話が記され、東北の伝承として知られる。
送り狼との混同: 四国や中部では「送り狼」「後追い犬」と呼ばれ、狼と犬が入れ替わる地域差がある。どちらも後ろから付き、転ばせて襲う点が共通する。
出典・参考文献References
- 『夜窓鬼談』 石川鴻斎 1894 — 夜道で犬が後ろを付ける話。転ぶと害されるが「休め」と唱えると退く。
- 『遠野物語』 柳田國男(聚精堂) 1910 — 夜道を歩く際に犬が後ろから付いてくるという話。
- 『絵本百物語』 桃山人 — 古典・基本文献(成書年は版により異なる)
よくある質問FAQ
送り犬に遭ったらどうすればいいですか?
転ばないように歩き、「休もう」と声に出すと、送り犬は一時的に姿を消すとされます。振り返らないことも大切とされます。
送り犬と送り狼の違いは何ですか?
基本的な話は同じで、犬が狼に置き換わる地域差があります。東北では犬、四国や中部では狼とする伝承が多く見られます。
送り犬は実在しますか?
伝承上の怪異であり、実在は確認されていません。江戸期の怪談集や明治期の民俗資料に記録が残ります。
最終更新: · 編集: 百鬼編集室